第40話

 研究所の一室で、チェスリンは傷を癒していた。入って右の壁にくっついた机に向かって座り、右手で書類を読みながら左手を全身の傷口に当てて魔法をかけ、徐々にだが傷を治している。

 突然、ノックもなしに扉が開いた。斧を肩にかけた男が入ってくる。

「ウェルドレッドか、一言くらい言ってから入れ」

「……すまなかったな。それより傷はどうだ?」

椅子に座るチェスリンの左に立つ。チェスリンは机に置かれた分厚い書類に集中しながら、治療の終わってない左腕を見せる。

「後は治療に使ってた左腕だけだ。お前は大丈夫なようだな」

チェスリンが喋る間に、男は肩幅大の針を音を殺して取り出す。一瞬ぴたりと針を持つ手を止めて、背中めがけて素早く振り下ろした瞬間だった。チェスリンは首をギュルリと回し、顔に続いて左腕を針の前に出そうとする。その顔は笑っている。男は舌打ちをするが、振り下ろす手は止めない。


  バタン!!

扉が再び急に開いた。チェスリンは驚いて腕を出すスピードが遅くなる。その間に男は針を突き刺した。針は反対側を目指して背中を突き進む。チェスリンは左腕で男の腕を掴んで針が貫通するのを防ごうとするが、男の力が思いの外強く、全身ごと机に向かって倒される。

「しぶといな。早くやられろ」

男は針をグリグリと動かして傷口を広げる。数秒の抵抗の後、チェスリンは動かなくなった。


 プリシラが男の前に歩いてくる。男は自らの顔面を剥ぎだした。

「プリシラ。お前俺が絶対に失敗すると思っていたな」

血が止まると、出てきたのは仮面を持ったルミナリスだった。

「あーあ、やっぱりばれちゃったか。まあ上手くいったみたいだしオッケーかな」



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