第36話
ルミオは当惑する。
「それは一体どういう……」
チェスリンが口の中に残る血を吐き出し、右拳で口を拭うと、続けた。
「辛さの余り忘れたんだな。お前はな、魔法臓器の研究のために研究所で色々といじられてたんだよ」
チェスリンは右腕を顔の前まで上げると、力を込める。すると、ルミオと同じように黄色い魔力の膜に覆われた。しかし、幕は厚く、その輝きは煌びやかだ。
プリシラがチェスリンに杖を向ける。
「フレイム……ぐっ‼︎」
ウェルドレッドがプリシラの眼前に立ち塞がる。横にいたルミナリスが嬉々としてウェルドレッドに飛びかかった。その間にもルミオの過去は暴かれていく。
「本当は光魔法しか出来なかっただろうけど、魔獣と混ぜたからな。今はこれも出来るはずだろ?」
左腕も上げると、今度は黒い魔力で同様に覆われた。ルミオの顔はどんどん青ざめてゆく。ぺたりと座り込み、カタカタと震えながら自分の左手を見ると指紋を伝って黒い魔力がドロドロと溢れてくる。
「ああっ……。こんな……」
「ルミオ! しっかりするんじゃ‼︎」
「そうだ、僕は今まで……」
ハルシウスが肩を揺するが声は届かない。ルミオは服を上げ、自分の腹を出す。そこには大きな縫い目がいくつもあった。それを見ると、目からは涙が溢れでて、自分の手と腹を見ながらぶつぶつと何かを呟いている。
チェスリンはゆっくりとルミオの元へ歩き出した。
「槍を持ってて良かった。それのおかげで直ぐに分かったよ、ルミオ」
ルミオに声が届かないのを分かった上で爽やかな笑顔をつくり、近づく。後数歩で手が届くというところまで来ると、ボロボロのハルシウスがルミオの前に立った。
「何故ルミオが実験対象なのじゃ?」
「お前もなにかしら見ているはずだ。ルミオは特別な一族の出でな、身体能力も魔法も優れている……。はずなんだが魔法は駄目みたいだな。魔法臓器を見るに魔力も強いはずなんだが」
それを聞くと、ほっと息をついた後にふふっと少し嬉しそうに笑った。
「……あやつの一族じゃ。今でも名門ではあったようじゃな」
肩の埃を落としてダークネスロッドを構える。左をちらりと見るとルミナリスとプリシラが傷だらけで倒れていた。
「あの二人なら起きませんよ。これで二対一です」
チェスリンの横にウェルドレッドが降り立つ。目を大きく開き、鼻息を荒げてハルシウスを睨んでいる。
「……やるしかないようじゃな」
プリシラが目を覚ますと、直ぐ横ではルミナリスが真っ赤な水たまりの上に倒れていた。暫くぼーっと周りを眺める。倒れる竜たち、ボロボロで倒れたまま顔を上げるしか出来ないハルシウス。見上げる先はチェスリンとウェルドレッド、更に二人の前で座り込んでいるルミオだ。大きく目を見開く。チェスリンが一冊の本を取り出した。その本のあるページを開き、ルミオの頭に押し当てる。すると、ルミオがその本の中に吸い込まれて行った。プリシラはもっと近くで見ようと這って進む。ウェルドレッドがこちらに気づき、歩いてくる。まだ遠くて本が良く見えない。全身の痛みに顔を歪めるが、我慢して進む。
表紙に書かれていたのは、折の中に入る悪魔で、その上には『無限の書』と書かれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます