第35話

 二人はそれぞれ魔法を自らの鳩尾に打ち込んだ。チェスリンは炎の突きを、ウェルドレッドは高振動する斧を鳩尾に突き刺す。魔法は皮膚を貫通して内部を傷つけ、そこから血しぶきが飛ぶ。

 四人が思わぬ光景に唖然としたのも束の間で、すぐに二人の身体に変化が現れた。膝立ちのチェスリンは全身から炎を吹き出した。右手が放つ炎が燃え移ったのではなく、全身が一度に大きく燃えあがっている。一方、倒れていたウェルドレッドは全身がピキピキと音を立てながら変色を始めた。薄い黒色に染まり、徐々に濃くなってゆく。最終的に銀色に変わり、全身が光りを放つ。ゆっくりと立ち上がるとあらゆる関節の内側から軋む音が四人のところまで響く。

 二人ともに共通しているのは息が荒くなり、目は大きく見開いて魔獣のような獰猛さが出ていることだ。白い息を吐きながらチェスリンが口を開いた。

「あくまで二人でだ。残りの三人は無視してもいい。あいつをやったらルミオを回収して帰るぞ」

ウェルドレッドは呼吸が荒すぎてまともに返事すらできないようで、首を少し縦に振った。二人が構えると、ハルシウスは慎重に相手の細かい動きを見ながらプリシラから借りている杖を袖から取り出そうとした。

 意識が少し薄れた瞬間だった。チェスリンが足を思いっきり踏み出す。先ほどまでとは比べものにならない速さにハルシウスは間合いを取れず、咄嗟にダークネスロッドを前に出す。

「コドク!」

二人の間にブラックホールの様にうねる黒い盾ができた。しかし、チェスリンは一度見たそれを意に介さず右拳を打ち出す。拳から盾への僅かな間を大量の稲妻が走った。盾は稲妻を吸い続けるが、徐々に歪み、うねりは弱々しくなる。猛然と稲妻を放ち続けるチェスリンを見てハルシウスは苦しい顔になる。もう一本の杖を振り上げると同時に盾を解除すると、今度は振り上げた腕をウェルドレッドに掴まれた。

「なにっ、いつの間に⁉︎」

振り解こうとするが間に合わず遠くに投げ飛ばされる。遠くまで飛ばされ、岩壁にぶつかったハルシウスはよろよろと立ち上がる。

「この状態の二人はちときついかのう……」

二人がハルシウスに歩いて近づく。すると、ルミオがハルシウスの前に立った。槍と全身に黄色い魔力を纏っている。

「僕の知り合いだそうですがこれ以上ハルさんには近づけさせません!」

すると、まだ辛うじて言葉が話せるチェスリンが大きく息を吐きながら笑った。プリシラがそれに気づき、手を伸ばす。しかし、間に合わなかった。


「ふははっ、そう言えば言ってなかったな。俺の実験動物なんだよ、お前」

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