第34話

 チェスリンは右肘を地面に立てて上半身だけ浮かせて顔を上げ、一方でハルシウスがかっかっかと笑って見下ろして小ばかにする。

「竜を虐めてイキリおって。この程度か」

チェスリンが素早く左腕を前に出すが、ハルシウスが杖を動かさずに微かに振るうとチェスリンの左手付近で黒い球体が発生してはじかれる。

 ハルシウスが横目に見ると右から斧が回転しながら飛んできた。既に気付いていたため余裕を持って上半身のみを少し後ろに傾けてかわす。その隙にチェスリンが後ろにいるウェルドレッドのもとに下がり、斧は弧を描きながら向きを変えて持ち主の手元に戻った。四人はルミナリスこそところどころ出血しているが他は無傷な一方で、二人は既に満身創痍だ。ルミナリスがプリシラとルミオに怒りをぶつける。

「だから邪魔するなと言っただろ! お前らはもう一人の相手でもしてろ」

「私は別に良いけどサポート無かったらもう死んでるんじゃないの? それにしてもチェスリンは小人族のはずだし、他にも気になることが……」

「ルミオの方は大丈夫そうかの?」

「今のところは大丈夫そうです。それにしてもなんであんな爽やかなイメージの顔を真っ赤にして拳をプルプルと震わせる。ウェルドレッドはウェルドレッドで苦しそうな顔を崩さず四人を見ていた。

 一息吐いて無理やり怒りを鎮める。少し冷静さを取り戻したチェスリンがウェルドレッドの肩にポンと手を置いた。

「ウィザードリィドバックだ。やるしかない」

ウェルドレッドがその言葉を聞いてうろたえる。

「でもあれはまだ開発段階なんだろ? それに麻酔だって……」

チェスリンはポケットから小瓶を二つ取り出した。ウェルドレッドはそれを見て更に驚き、恐る恐るチェスリンの顔色を伺う。チェスリンは眉間にシワを寄せ、無言でウェルドレッドを睨んだまま小瓶を一差し出していた。その狂気じみた睨みに怯えたのか、無言の命令を理解し、諦めて小瓶を受け取った。小瓶を開けて二人とも中のドロドロとした紫の液体を飲み干す。ウェルドレッドの斧を持つ手が震え出した。ガタガタと震わせながら斧を振り上げる。チェスリンがそれを見て合図した。

「行くぞ!」

「「ウィザードリィドバック‼︎」」

二人はそれぞれ魔法を自らの鳩尾に打ち込んだ。

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