第32話

 男が斧を振りかぶった。四人からは程遠いが、それでも気にせずに斜めに下ろす。

「ウルネルド!」

風がうねりをあげ、端が鋭い鉛筆のようになって回転しながら一直線に四人へと向かって来た。風は地面にヒビを入れ、砂を巻き上げて突き進む。プリシラとルミオ、ルミナリスがかわそうとするが、ハルシウスが止めた。

「やつらのレベルの高さをここで見ておけ」

風のドリルに向かって、ハルシウスがダークネスロッドを前に掲げて呪文を唱えた。

「コドク」

四人の前に漆黒の盾が現れる。風は勢いよく吸い込まれていくが、四人から見える盾の内側では空間の歪が生じていた。次々に流れゆき四人を切り裂こうとする風と全てを吸い込もうとする盾が拮抗する。

 数秒後、全ての風が吸い込まれ、形のゆがんだ盾はシュゥゥと音を立てて弱弱しく消えた。これを見て二人の男はしばらく呆気に取られていた。先に我に戻った外套の男、チェスリンが拳をぎゅっと握ると、手袋が赤黒く変色する。

「なんだ、それは。『火炎柱』」

右手を広げて、四人の手前から斜めに伸びて襲い掛かる柱を生み出した。。四人全員を焼き尽くすには充分過ぎる太さの柱を制御しようと、左手で右手首を押さえる。巨大な炎の柱を前にハルシウスがニヤリと笑った。

「やるではないか、『サンティオール』!」

今度はより大きな正方形の黒い壁が出現した。炎の柱と壁がぶつかり合う。炎は壁にぶつかって横に広がり激しい音をゴウゴウと立てる。男二人からは四人と壁は一切見えない。チェスリンは暫く先を睨みながら炎を放出していたが、止めて様子を伺うと、壁は炎の柱を弾いて毅然とたたずんでいた。いつの間にか、二人のハルシウスを見る目つきは真剣なものになっている。

「……見ていたな、ヴェルドレッド。協力するぞ」

もう一人の男、ヴェルドレッドも無言で頷く。

 しかし、ハルシウスも警戒しているようで後ろを振り向いて三人を説得する。

「見てたじゃろ、あやつらは相当強い相手じゃ。今回は後ろでサポートで……」

ルミナリスは聴き終わる前に飛び出した。

「そんなん出来るか! 先に行くぞ‼︎」

その目は大きく見開き、赤く充血していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る