第28話
四人は竜の巣へと向かっていた。右は直角にそびえ立つ壁、左は一度落ちたら二度と戻ってこれないであろう崖になっている狭い道を通っている。時折下から強い風が吹き付けて四人を揺らす。
「そう言えばハルの時代の竜ってどんな感じだったの?」
プリシラが強風に揺られないよう壁に手をつけて歩きながら尋ねた。聞かれたハルシウスは、思い出すように首を捻る。
「うーむ、どうじゃったか。やはり見ることが無かっただけに記憶も薄いのお。たまに遠くの空を飛んでるのを見て、今日は良いことがありそうじゃな、くらいの感覚じゃったぞ」
「じゃあ私たちと一緒で今回初めて近くで見られるかもね」
「みな見たことないのか?」
「多分二人も無いと思うよ。ねえ?」
プリシラが後ろを歩くルミオとルミナリスを向くと、二人とも頷いた。
「今も昔と一緒で身近には居ないし、竜の巣にいるって分かっててもわざわざこんな大変な道を通って行く変わった人はなかなか居ないよ」
ハルシウスが頷きながら進んでいると、少し前の崖の下から風の勢いに乗って数匹の鳥が登ってきた。鳥たちは四人の目の前に降り立つ。大きさはルミオと同じくらいで、全身が崖と同じ灰色に包まれている。
「なんじゃ? こやつらは」
ハルシウスが手近な石ころを取ると、振りかぶって投げた。石は目にも留まらぬ速さで一匹の頭に当たる。意識を失い、倒れてそのまま崖から落ちようとしていた。
しかし、意識をギリギリで取り戻した鳥から突然細長い手が伸びた。これにルミオはびっくりして崖から落ちそうになるが、ルミナリスに掴まれる。
「ありがとうございます」
「礼は良いから気を付けろ。あいつらは見た目以上に強いぞ」
これを見たハルシウスも一瞬驚いた顔をしたが、直ぐに苦い顔になる。鳥たちはメキメキと音を立てながら骨格を変えて行く。そしていつのまにか、白い猿の集団になっていた。
「あいつらはプレーンモンキー。なんにでもなるしなんでも食べる荒めのモンスターだよ」
プリシラはペンと同じくらいの大きさの杖を四本取り出し、左手の指と指の間にはめた。
「なんにでもなるというのは、今のか?」
「うん。理性は無いけど私より変身は上手いよ。身体のガワだけじゃなくて中身も変えちゃうから。ここは余り動き回ると危ないし、私に任せといて」
ハルシウスの前にプリシラが立つ。プレーンモンキーの群れは一斉に自らの骨格を壊し始めた。体色どころか、体毛すら抜けて行く。最終的に、大きなトカゲとヤギの群れに変わっていた。よく見ると、トカゲの鱗の狭い隙間から炎が漏れ出ている。ヤギは体表が真っ青になっている。
群の一部がプリシラに襲いかかってきた。プリシラは近づけさせまいと、二本の杖から同時に魔法を使う。すると、水の球と地面を伝う小さな雷が発射された。水の球は壁に沿って来たトカゲに、雷は正面から向かって来たヤギに命中した。喰らったプレーンモンキーはふらふらと崖から落ちていった。見ていた三人が口を開けて感心する。その間にも残りの群れは各々異なる動物へと、さっきよりも多様に変身した。しかし、プリシラは表情を変えずに四本の杖からほぼずっと同時に魔法を使い続け、全てのプレーンモンキーを倒した。
「お見事じゃな。自然魔法のバランスもさることながら、同時使用とはたまげたわ」
ハルシウスが褒めちぎると、プリシラは少し目を細めた。
「私は魔力も固有魔法も人並みだったからね。こうして他で補ったよ」
ルミナリスも戦いぶりを見て感心したようだ。
「四本も使いこなしてるやつは会ったことないな」
「うむ、わしも出来て二本が限界じゃ」
ハルシウスも賛成するが、プリシラはあまり喜んでいるようでは無かった。
「これぐらいは出来とか無いとね。いざって時に……。それに、属性を混合させて一度に出せる人もいるらしいから」
寧ろ、自分の実力の無さを悔しがってるようだった。
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