第29話

 四人は、今までより慎重に道を進んでいた。プレーンモンキーを倒して以降、魔獣こそいなくなったものの道のりは更に険しくなっている。風は不規則な動きでかく乱し、上からは時折巨大な岩が落ちてきて四人を襲う。足元だけでなく、上にも注意して進むようになり、進度は確実に遅れていた。

「本当にこんなところに住んでるのか?」

一番後ろを歩くルミナリスが強風で声がかき消されないように叫ぶ。すると、その声に反応するかのように岩が四人の下に落ちてきた。ハルシウスが最初に顔を上げて岩に気づくと、ダークネスロッドを掲げて呪文を唱える。

「コドク!」

四人の上に渦が生まれると、岩は丸ごとすいこまれて消えていった。

「今の岩はどこへ行ったんですか?」

ルミオがあちこち岩を探しながら尋ねると、ハルシウスは得意げな顔をしながら両手を上げた。

「……分からぬのじゃな、これが」


 更に少し歩くと、開けた道に出た。風は止み、右の壁はなくなって代わりに青い空が広がる。プリシラは両手をいっぱいに広げた。

「結構良いところじゃん、竜が住むには良さそうだね」

「うむ。人間が入れない竜だけの楽園のようじゃな」

「なるほど、そうかもしれないですね……もしかして、あの遠くに飛んでいるのが竜ですかね」

ルミオの視線の先には、崖沿いに確かに何かが飛んでいた。ハルシウスがどれどれと目を細める。

「ううむ……どうやらそのようじゃな。こちらからじゃ詳しくは分からぬがなにやら激しく飛び回っておるのう」

「竜同士で戯れてるんなら混ぜてもらいたいな」

ルミナリスも遠くを凝視する。同時に右手を広げて指の関節をパキパキと鳴らして口元からは笑みがこぼれる。

「どんなやつらかは分からぬが、行ってみるしかなかろうな……」

四人が視線を戻した瞬間、大きな爆発音が視線の先から響き渡った。再び視線を戻すと、大きな煙が立ち込めて竜は隠れている。少し離れたところで再び爆発が起こった。すると、煙の中からいくつもの点が出てきた。

「はしゃいでるだけだといいね」

全員で目を合わせると、早足で向かった。

 到着した崖は、一部がえぐれて海に沈んでいる途中だった。崖には大きな間隔をあけて穴が開いているが全て中には何も入っていない。様々な容姿の竜たちは一様にその大きな翼を広げてあちこちを飛び回っていた。

「これは……」

あまりの光景にルミナリスが口を開いて唖然とする。ハルシウスが指さす。

「あそこでなにかと戦って居るようじゃな」

こちらからは段差があって見えないが、竜たちは下に向かって囲んでいた。下まで降りると、そこには翼をもがれた竜が何匹も横たわっていた。取られた翼は、何段にも重ねられている。その横に、二人の人間が立っていた。

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