第26話

 二人を除いて人の気配のしない寝室。ベッドの上で、プリシラはオットガルに馬乗りになって杖を向けていた。ベリトがオットガルの顔にまとわりつく。オットガルの左眼には大きく口を開いて牙を見せるベリトのみが映っていた。身近な危険を前に、オットガルは慎重に言葉を選ぶ。

「何なんですかあなたは? わたくしはあなたに用事は無かったのですが」

「やっぱりそうだったんだ、あからさま過ぎてみんな気づいてたよ」

「いや、今のはそういう意味では……」

「まあ私もあなたに用事があるんだよ」

プリシラは話を遮ると、どこから出したのだろうか、左手には一冊の書類を持っていた。それをオットガルに見せる。両手を縛られたオットガルが目だけ動かして恐る恐る読んだ。それはプリシラが以前持ち帰っていた地下の闘技場の顧客リストだった。オットガルは鼻を鳴らす。

「ふん。こ、これがどうしたっていうんですか。ここにもある通り闘技場で賭けをしている人なんていくらでもいますよ」

反論すると、プリシラは杖を振って風を起こすことで指で直接触らずにページをめくった。書類は「寄付状況一覧」と書かれたページで止まる。

「賭博とは別で寄付するなんて変わった人も多かったけれど、あなたは特に変わっていた。こんなに寄付をしておいて賭博へは一切参加していなかったのはどうして?」

そのページにはオットガルの名前があった。寄付額が他の者とは一線を画している。オットガルは押し黙った。プリシラは杖をオットガルの右目にゆっくりと近づける。

「今回は時間が無いんだ。早く済ませ……」

「わ、分かりました! 話すから杖を下ろしてください!!」

オットガルはうなだれる。あまりの抵抗のなさにプリシラはあっけにとられた。

「全然粘らないじゃん。そんな簡単に話して大丈夫?」

「元々やらされたことですしね。それに何をするつもりかは知りませんが、無駄だと思いますよ」

「ふうん。どうして?」

「……護衛軍のチェスリンをしっていますか?」

護衛軍という単語が出てプリシラの手に持つ杖が微かに震える。自分の手が震えていることに気づくと、ぐっと力を入れなおして続きを聞いた。

「チェスリン? 一番新参っていうのは知ってるけど」

「そうです。わたくしは彼にあの子供を探して可能なら捕まえるように指示を受けていました。探す候補の一つがメフロンの闘技場だったのです」


「ルミオを……探していた?」

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