第25話
ペッシモがルミオ達の部屋に入るのを確認すると、ヘルゲも続いてハルシウスとプリシラの部屋に入って行った。部屋の間取りが異なり入り口からでは寝顔が見えないため、誰が寝ているかを確認しないで音を立てないよう一つのベッドへと向かう。
あと少しで顔が見えそうというところまで来た時、ドオン!と凄まじい音がドアの外から聞こえた。部屋にいるヘルゲには何があったのかは分からないが、素早く判断して後ろを振り返り、部屋を出ようとする。
しかし、彼は後ろを振り返って初めて気づいた。ドアの上の天井に何かが張りついている。ぎょっとしてドアから数歩後ずさる。
距離を取ると全体像が見えてくる。張りついていたのは、ハルシウスだった。にやにやとヘルゲを見下ろしている。
「残念だったな、子悪党め。お主等の思惑なぞお見通しじゃ!」
しゅたっとドアの前に降りてゆく手を阻む。
「何時から気づいていたんだ⁉」
動揺を隠せないヘルゲを見て、ハルシウスの顔は更ににんまりとなる。
「わしはのう、花を育てているのを見た時点で怪しいやつらじゃと思っておったぞ。覚醒剤を作っておったな?」
「そんなに早くから……」
「まあわしの場合はそもそも知っていたからのう。」
ポケットからいつ手に入れたのか分からない花を取り出し、二つに割って中身を鼻で吸う。
「そういうことか……それにしても相方はどうした?」
ヘルゲは質問をかけながらも周囲を慎重に、かつさりげなく見回す。しかし、ヘルゲの考えは筒抜けだったようだ。
「残念じゃったな、プリシラなら既におらぬぞ」
「なんだと⁉ まさかオットガル様を……」
ヘルゲはハルシウスが塞いだドアとは反対側に向かって走り出す。今度はハルシウスが一歩遅れた。すぐさまに手を伸ばすが、掴めずに虚しく空を切った。ヘルゲは窓を破って部屋を出て行く。
「意外と頭の回るやつじゃな!」
ハルシウスも後を追って窓から出て行った。
ヘルゲは全速力で迷いなく一つの棟へと入って行った。ハルシウスも続いてゆくと、棟の中からは、今までで一番の甘い香りが広がっていた。畑よりも強い香りを前に、腕を鼻に当てながら追いかける。ヘルゲはとある部屋に逃げ込むと、すぐに扉を閉めた。しかし、ハルシウスは拳で一突きして部屋へと侵入した。
そこは広間だった。中には大量の女が床に座っている。種族こそまばらだが、みな一様に目はうつろで、だらしなく、甘い匂いがしていた。ハルシウスは少し止まって様子を見る。何かをぶつぶつと呟くものや、よだれを垂らしたまま横になるもの、何もせずにただぼーっとしているものまで様々なものがいる。
「明らかに過剰な量を飲まされておる。オットガルの奴隷じゃな……」
ハルシウスが立ち止まっている間にも、ヘルゲは女をかきわけてオットガルを探しながら奥へと進んでいく。
「家事よ、客人用の棟が燃えているわ!」
一人の女が扉を勢いよく開いて入ってきた。女の叫びを聞いて何人か意識のはっきりしているものが立ち上がり、ふらつきながらも逃げて行く。ハルシウスは大部分の残った女たちを哀しい目で見つめていたが、再び走り出した。
「全然見つからないじゃねーか!」
ハルシウスが追いついても、ヘルゲは依然としてオットガルを探していた。あまりに必死に探していてハルシウスのことに気づいてないのだろうか。
「お主は他人の心配をしとる場合か」
同時に杖を振る。ようやく気付いてこちらを見るがもう遅い。ヘルゲを中心に半径5mほどの地面が円状に凍る。
「てめえ、いつの間に! 相手をしてる暇は……」
ヘルゲが足元に目を移すと、既に足首まで凍り付いていた。
「お前、こんなに上級の魔法を使えたのか――」
ピキピキ、と音を立てて全身が凍り付いた。ハルシウスは、ヘルゲが動かなくなったのを確認すると、燃える宿を眺めながら呟いた。
「プリシラの方は上手くいったかの……」
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