第24話

 ルミオとルミナリスが泊まっている一階の角部屋。既に夜は更け、二人ともそれぞれベッドの中から動かない。ドアが音を立てないよう静かに、かつ外の明かりが入らないようにわずかに開き、何者かが部屋に入るとすぐに閉まった。二つのベッドを交互に見たうえで、ルミナリスが入っているベッドへと忍び足で向かう。

 手を伸ばせばルミナリスの頭を触れるというところまで来た。しかしルミナリスは依然として目を瞑っている。

 寝顔を確認して杖を手に持ち、頭に向けようとしたその時だった。ルミナリスはパチリと目を開くと同時に、吠えた。

「会った時から臭ってたんだよなあ、殺気がよお!!」

腕を掴んで振り上げ、勢いをつけて思いっきり下に叩きつけた。身体が木材の床を破壊して地下へと落ちていく。ルミナリスと後に続いて、いつの間にか目覚めているルミオも地下へと落ちて行った。

 地下では、椅子に座った大量の小人が花に向かって作業をしていた。天井が大きく破けて降りてきた三人を見た小人達は唖然とする。状況を呑み込めずに暫くぼーっと三人を見ていたが、一人目を皮切りに皆が叫びながら逃げ始めた。

 逃げ惑う小人達をよそに、ルミオとルミナリスは男を見る。倒れているのは、オットガルの部下であるペッシモだった。身体全体を風が覆っており、地面すれすれで浮いていた。ペッシモは二人と目を合わせるとすぐさま後ろに風で飛んで距離を取る。杖を振って体の周りの風を鎮めた。そして、ニヤニヤしながら尋ねる。

「気付いていたんですねえ」

ルミナリスは珍しく満面に笑みを浮かべている。完全に戦闘態勢に入っているようだ。

「お前ら三人敵意が見え見えだったからなあ」

「僕は最初全然分かりませんでしたけど、寝ていると「気を付けろ」って言われたんです」

ルミオも槍を大きく回しながら魔力をこめて備える。

「気づいたのは褒めてやるが、お前らでわたしに勝てるかな? 魔力の才が無いのは分かっているぞ。『火炎柱』」

杖を二人に向けて、二人の間から地面を割って大きな炎の柱が上げる。二人はそれぞれ横に飛んでかわした。ペッシモは二人とも見逃さずに次の魔法を唱える。炎を様々なところから打ち出して、ルミオとルミナリスを巧みに動かす。机や大量の花々が燃えることで、更に二人の動きを制限した。

 いつの間にか、二人の間には炎の巨大な壁が立っていた。ルミナリスはペッシモと一騎打ちの形になる。炎越しにルミオが叫んだ。

「そちらに向かうまで少し時間がかかりそうです、待ってて下さい!」

しかし、ルミナリスはルミオの優しさに怒声で答えた。

「うるさい! 助けはいらんから自分の心配でもしてろ」

壁からペッシモに向き直り構える。

「それにしてもお前、何で俺らに夜襲した?」

ペッシモは二人を下に見ているのだろう、隠さずに答える。

「ふふ、それは秘密。と言いたいところですがどうせ生きて帰す気は無いので教えてあげましょう。そこのガキを攫う様にオットガル様から命令されてるんですよ」

すると、ルミナリスは納得の行ったような顔をした。

「……成る程な。あの女の奴隷だ、やはり何かあるようだな」

「冥土の土産です。知れてよかったですね」

ペッシモはニヤニヤしながら杖を振って火の海を広げていく。

「まだ詳しく聞いてねえが、お前を倒してからあの小人の所に行くことにするわ」

ルミナリスはペッシモへと飛びかかった。ルミナリスの異常なスピードに対し、ペッシモは慌てて杖を前に向ける。

 ドオン!という衝撃とともにペッシモが壁に叩きつけられた。しかしペッシモの腹には水の壁が出来ており、致命傷を避ける。直ぐに壁から剥がれて杖をルミナリスの方へと向けた。

「夜襲を逆手に取られた時から分かっていましたが、相当強いですねえ。ここは守りに徹しましょう」

「そうか、出来るならやってみろよ!」

ルミナリスは軽快なステップで横にも身体を動かしペッシモの隙を伺う。ペッシモはルミナリスに杖を向けるがついていけず、いつの間にか距離を詰められる。ルミナリスが横腹を狙って拳を打ち込む。ペッシモは風の壁で守ろうとするが対処が間に合わず、勢いを殺すので精一杯だ。ルミナリスは一発撃ちこむとすぐに杖の延長戦から逃れる。

 一体何発を耐えただろうか。ペッシモの全身は既にボロボロで、最早立ち上がるので精一杯だ。ルミナリスは口に手を当てて欠伸をする。

「なんだあ、全然弱いじゃねえか。これならプリシラと闘った方が何倍もマシだな」

しかし、ペッシモの気味の悪い笑顔は崩れない。

「……果たして本当にそうですか? ここにこんなに長く居て、無事でいられますかね?」

ルミナリスが睨みつける。

「ああ? 何を言って……」

ルミナリスの身体が急にふらついて、ドサッと音を立てて倒れた。逆に立ち上がったペッシモが見下ろす。

「効いてきましたか。この花は燃やすと毒が気化して空中を漂うんですよ。元々覚醒剤にするためにここで作っていましたがバレても問題ないでしょう。次は私の番ですかね」

ルミナリスは必死に立ち上がろうと手を地面につくが、すとんと手は滑り身体が崩れ落ちる。

「フレイム……」

これで最後だといわんばかりにペッシモが大声で呪文を唱え始めたその時だった。

 炎の壁が割れた。ルミオが槍で突き破ってそのままペッシモへ向かって行く。杖を向けるがもう遅い。

「何故お前は効いてないんだ! まさか既に……」

ルミオが槍でペッシモの頭を叩くとゴンッ、という音がして倒れた。ペッシモが気を失っているのを確認してからルミナリスに手を貸すと、疑いの目を向けられる。

「お前何で大丈夫だったんだ?」

ルミオも不思議そうな顔をする。

「なんででしょうね? でも空気を吸ってても特になんともなかったです」

「お前は謎が多いな。……あと、立てないから運んでくれないか」

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