第20話

「……ハルシウス様は何をしたいのか、決まりましたか?」

アルミエルの声は優しく目は笑っているものの、凄み、そして真剣さが伝わってくる。ハルシウスもその目を見て真剣に答える。

「……うむ、暫くはルミオの出身を探しながら世界を回ろうかと思っておる。この遠い時代に出会ったのも何かの縁じゃと思ってな。今魔界がどうなっておるのか、そしてそれを見てなにをしたいか考えたいのじゃ」

「そうですか……それは素晴らしいことですぞ。是非その目で世界を知って下さい。しかしながら、その勇者の地は私にも分かりませぬ。提案ですがここは竜の巣に行かれてはどうでしょうか?」

ハルシウスが尋ねる。

「竜の巣? 竜と言えばわしらの頃は魔界でも人界でもなかなか見られぬ希少種じゃったのに。なんじゃそれは、そんなに竜が見つかったのか」

「はい、他の種族に比べれば未だに希少種ではありますが、ヒトの進出によりいくつかの種類の竜が新たに発見されました。竜の巣とは世界中の居場所を失った竜が集まる崖のことです。理由は様々でしょうがそこでは一匹一匹が崖の穴に入り込んで住んでいます。そこならハルシウス様の気が合いそうな者もおるかもと思いまして提案した次第です」

「竜か……。それは面白そうじゃな!」

喜ぶハルシウスを見てアルミエルも安堵する。

「ハルシウス様のお気に召したなら光栄です。……それなら、うちのルミナリスを連れて行ってやってはくれませぬか?」

アルミエルがぽんと手を叩いて提案をした。この急で、しかも勝手に行動を決められるという理不尽な提案を横耳に聞いていたルミナリスは、意外にも賛成した。

「……俺はハルシウスやそれ以上の強いやつと戦えるなら着いて行ってやっても良いぞ。闘技場にも飽きてたしな。しかしなんでそんな提案をする」

ルミナリスが当然の疑問を口にすると、アルミエルははーっ、とため息をついて呆れた。

「お主がメフロンの闘技場で戦ったと聞いてそう言うと思っとったからじゃよ。後その言葉使いはやめなさい。……ハルシウス様は幹部が一人増えたと思ってどうかこやつを扱ってやって下さい。無口な子ではありますが、芯は通っています。きっとお役に立つでしょう」

お互いたいそう信用しているのだろうか。アルミエルはルミナリスの頭の上にぽんぽんと手を置くが、ルミナリスは全く嫌がる素振りを見せない。この提案にハルシウスは戸惑った。

「わしは良い。というかむしろ有難いが、そもそもこれからの行動をルミオとプリシラにはまだ話しておらぬ。二人と共にするとなった上で二人にルミナリスのことも話さねばならぬ。もう少し待ってはくれぬか?」

 すると、二人とも話を聞いていた様でどこからやら既にやって来て座っていた。

「僕は自分の集落を探してもらうだけじゃなくて、ルミナリスさんが着いて来て下さるなら心強いです」

「私も別に気にはならないよ。でも仕事があるから、竜の巣に行くなら少し寄り道して欲しいかな」

「ほう、どこへじゃ?」

プリシラは地図を広げてここ、と指差す。

「メイティ。ドリス王国の直ぐ横にある小国なんだけど、ここに私のお仕事の対象がいるかもしれないの」

メイティはメフロンからほぼ真上に登った所にあった。そのすぐ左上、つまり大きな大陸の上、かつ真ん中より少し右、といった所を次に指差す。

「ここが竜の巣。多分道なりに行くなら遠くならないと思う」

それを聞いたハルシウスはうむと頷いた。

「わしは異論は無い。……どうやらわしらの予定は決まったようじゃの」

ハルシウスがルミオとルミナリスを見ると二人とも頷いて返事をした。

 次の日、ハルシウス、ルミオ、プリシラにルミナリスの加わった四人は集落を出た。

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