第18話
ハルシウスはじっくりと考える。やがて覚悟を決めたようにゆっくりと口を開いた。
「二万年か……それほどの時が流れたという事はつまり、お主以外に生きている幹部はもうおらんということじゃな?」
少し間を開けてアルミエルは頷いた。
「左様です。私がこの時代に生きている、最後のあなたの部下になります」
二万年という数字を聞いてルミオが驚く一方で、プリシラが「へえ」と驚いた。
「ハルがそんなにおばあちゃんだったとはね。思った以上だったよ、道理で全然地名とか分からない訳だ」
「わしもそんなに時が経っておったとは思わなかったぞ。しかし知り合いがアルミエルだけとなると、魔界の再興への道のりは長引きそうじゃの」
ハルシウスはアルミエルに手を貸す。
「そうですな……私も最早この様な老いぼれ、部下として戦いに身を投じた所でお役に立てますまい」
アルミエルはその手を握って立ち上がった。
「しかし、他の事でならお力になれることもあるかもしれません。何かお困りの際には是非言ってください」
「そうじゃな、よろしく頼むぞ!」
「はい、ハルシウス様! 次の目的地が決まるまではここでゆっくりしていって下さい。何も無い所ではありますが」
「そんなことは無い、お世話になるぞ!」
ハルシウス達はその日も泊まっていった。
次の日、ハルシウス達は山奥に狩りをしに向かった。
「今朝も言ったがここでは強い魔獣が度々現れる。……このガキも付いてきて大丈夫なのか?」
ルミナリスが尋ねる。その顔は訝しげであり、まだルミオの実力を信じていないらしい。
「わしは以前、共にスイートドリルなる魔獣を狩ったが特に問題は無いと思うぞ。魔法は使えぬがそう問題になることは無かろう」
ハルシウスが客観的に見たうえでお墨付きを与える。
「心配してくれてありがとうございます。でもハルさんの言う通り、僕は一人でも魔獣を倒せるので安心して下さい」
「……そうか、分かった」
言葉とは裏腹に明らかにまだ納得していないルミナリスの顔を見て沈黙が流れる。
すると、プリシラがある提案をした。
「それなら皆別れて狩りをする? 誰が一番大きい魔獣を持って帰って来るか競ってみようよ。私はルミオの付き添いするから、それなら大丈夫でしょ? 勿論手助けはしないよ」
「良い提案じゃな! ここで皆の実力を見てみようではないか」
ハルシウス、ルミオ、ルミナリスの三人は競争することとなった。プリシラがハルシウスに注意しておく。
「夕方にまた集まって成果を見せ合おう。ハル、獲物は集落にプレゼントするんだから、食べちゃダメだよ」
ハルシウスは頬を膨らませた。
「分かっとるわい! ではとっとと始めるぞ!」
各々異なる方向へと向かって行った。
ルミオとプリシラは北の方へと進んでいた。まだ一匹も獲物を捕まえていないが、ルミオはゆっくりと歩いていた。
「なんでこっちに行こうと思ったの?」
プリシラが小石を蹴って、つまらなそうな顔をしながら尋ねると、ルミオは足元の川を指差した。そしてそのまま川の上流に向かい沿っていきながら指を動かした。
「この川は北の方から始まっています。川沿いに歩いて行けば、そこを住処にする動物と、それを狙う魔獣が沢山居ると思うんです」
ほら、とルミオが木の根本を指すと、そこには動物のフンが幾つか転がっていた。
「小さい頃は良く狩りをしていたので」
「へえ、小さい頃ね。……おっと、やってきたみたいだね」
二人とも杖と槍を構える。周りを見渡すと、一面に猪の魔獣が二人を囲っていた。
「これがルミナリスさんの言ってたファイアボアですね。角が無いのには騙されるなと言ってましたね」
ルミオが槍にぐっと力を込めると、ファイアボアの群れも反応して、生えていなかった筈のツノが生えてきた。よく見るとツノは炎で出来ており、丁度落ちてきた葉が、ツノに触れた瞬間燃えて炭となった。
「じゃあそれぞれで半分ずつ倒そっか。私あんまこういうの得意じゃないけど大丈夫だから気にしないで良いよ」
「分かりました、行きます!」
ファイアボア数匹が一斉に地を蹴る。ツノを突き出し二人めがけて突進するが、ルミオは槍でそのままなぎ払い、プリシラは魔法でファイアボアを水の檻の中に閉じ込めて近寄らせない。数匹で挟み撃ちを試みてもいなされる様子に、二人に触れることすら叶わず無傷で終わる様に見えた。
しかし、残った数匹のファイアボアが水の檻に入った猪を突き飛ばしながら、最後の力を振り絞ってプリシラめがけて突進してきた。死角からの同族を利用した予想外の攻撃に、プリシラは反応が遅れる。すかさず袖から蛇の使い魔のベリトが噛みつくが、必死の勢いは殺せない。
「これはやばいかも……」
呟きながら杖を向けるが間に合わず、回避も出来そうに無い。両腕で顔を覆ったその時だった。
「メテオスピア!」
声と共にルミオの方向で爆発が起こった。それと同時に、プリシラの目の前を一瞬何かが通り過ぎた。プリシラが目を開けると、そこには何かがファイアボアの群れを横から一直線に貫いた様な鋭い跡がファイアボア達に残っていた。ルミオと逆の方向を見ると、大木にルミオの槍が刺さっている。そして、爆発した所の煙が晴れると、ルミオが右腕を下ろして投げた後の姿勢のまま立っていた。
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