第16話

 ハルシウス、ルミオ、プリシラの三人はルミナリスの案内で集落へと向かった。集落への道のりは、街とは異なり一切人のために手をくわえられておらず、もちろん他にここを通る人はいない。しかし、四人はこの険しい道のりを軽々と進んでいく。

「ルミナリスは警備会社の社員じゃったのか? あの地下闘技場で戦ってたということは」

「……ああ、初めはな。護衛や警備は上手く出来なかったが、腕っ節だけはあったから地下闘技場に呼ばれた」

いつの間にかルミナリスは初めて会った時の様に寡黙な男に戻っている。ルミオが少し緊張した声で質問した。

「ルミナリスさんはその……なんというか、落ち着いた方なんですね。ハルさんと戦っていた時は楽しそうでしたけれど」

プリシラもつまらなそうな顔のまま表情を変えないが、ルミナリスは元の顔つきが睨んでいるように見える分、ルミオは怖がっているようだった。

「……戦い以外余り興味が無いだけだ。そのせいで警備の仕事もクビになった。気にするな」

ルミナリスは顔色を一切変えずに淡々と答えた。

 黙々と歩き続けて、その日の終わりに集落に到着した。家が点々と並び、ダークエルフが細々と暮らしている。既に日は落ちようとしていて、丁度皆家に帰って行っているようだった。

 すると、一人のルミナリスと同じくらいの年齢に見えるダークエルフの男がこちらに気づいてやってきた。

「ルミナリスじゃないか、久しぶりだな! どうしたんだ、一体?」

「……こいつらを長に合わせたい。知り合いだそうだ」

「そういうことか。それならついて来てくれ、案内するよ」

五人は奥へと進むと、一つの少し大きな家についた。中に入ると、一人の男が背中を向けて座っている。

「久しぶりじゃの、アルミエル!!」

顔は見えないがハルシウスが元気よく語りかける。すると、こちらをゆっくりと振り向いたのは年老いた男だった。あまりにも年老いていてもはやルミナリス達と同じダークエルフとは思えないない。男は暫く黙ってこちらをじーっと見ていたが、何かに気づいた様に突然叫んだ。

「……まさかその声、その顔はハルシウス様ですか⁉」

大きく目を見開いてこちらによたよたとなんとか走ってくる。ハルシウスの両肩を持ち、ゆさゆさと振った。

「そんな子供の様に喜ぶでない、アルミエルよ。しかしわしも貴様と会えて嬉しいぞ!」

二人とも久しぶりの再会に大変喜んだ。

「いやはや、ハルシウス様はあの頃と変わらずですね。まさか生きておられたとは……」

「うむ。勇者に眠らされて起きたらこうなっとったわ! お、紹介しとこう、こやつがその子孫のルミオじゃ! こやつの故郷に行って勇者をとっちめようと思っててな」

「……流石ハルシウス様です! それでこそ魔界の王ですぞ。……おっと、積もる話もありましょうが今日はお疲れでしょう。狭い所ですが泊まって行ってくだされ」

ハルシウス、ルミオ、プリシラの三人は客人用の家へと案内された。ルミナリスは帰るところがあるようで、一人で帰って行ってしまった。

「昔の知り合いが見つかって良かったですね!」

「うむ、しかしアルミエルには聞かねばならんことがいっぱいあるのう。明日が楽しみじゃ!」

こうして集落での一日目が終わった。

 次の日の朝、四人は再びアルミエルの元に集まった。

「先ずはお主がわしが封印されてから何をしておったのか知りたいのじゃが、教えてくれるかの?」

アルミエルは苦しい顔をしたが、ゆっくりと語り始めた。

「分かりました……。先ず城が襲撃された時の事から話を始めましょう。あの時私が魔界統治に向けて魔界中の各地へ赴いてたのは覚えておりますかな?」

「ああ、お主は幹部の中でも比較的まともじゃったからな。これからの交渉に向かわせとったはずじゃ」

アルミエルがうんうんと思い出して感傷に浸る。

「本当に話の通じないやつが多かったですな。それに失礼なやつも。……そうです、私は魔界の離れに向かっている途中でした。後ろから追ってきたオークのモゴルフルによって魔王城が襲われているとの報せを貰い、急いで城へと戻りました。しかし城へ戻ると、城の前で勇者一行と人間どもが言い争いをしているではありませんか。城に近づけない私とモゴルフルは遠くから隠れてチャンスを伺っていました。」

皆が黙って話を聞いている。

「しばしの話し合いの後、両者共に居なくなり、私達は急いで城の中へ入りました。そこで眠りについているハルシウス様を見つけ、声をかけてみましたが、ハルシウス様も分かっている通り、目覚めはしませんでした。すると、人界から魔界への侵入が始まったのです」

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