第12話
リザードマンの男三人はハルシウスとルミオを連れて歩き始めた。入り組んだ道を全て覚えているかのように止まることなく進んでいく。
「のう、どこに向かっとるのじゃ?」
「闘技場だよ。俺たちはお前をそこの選手だと思ったんだ」
「この国にそんな所あるんですか? 聞いたことないですけど」
「そりゃそうだろうな。裏でやってるんだからただの住人は知らないやつらが大半だろうよ。知ってるのは極少数の俺たちみたいなはみ出ものと後はこの国のお偉いさん。そして内外からやってくる金持ちどもだ」
「ほう。裏でやるということは後ろめたいものなのじゃな」
「そうだな。とんでもない額が一瞬で動くぞ、ここは。完全に違法だ。その上安全で売ってるこの国にあるんだからな、バレる訳には行かないんだろうよ」
ハルシウスは納得して呟いた。
「確かに、ここの警備会社は信頼を得てると聞いたぞ。それを失うのは国としては恐ろしいじゃろうな。しかし世界中から集まるとは凄いのう。一体どれ程のものなのか……」
「それは着けば分かるぞ。まあ黙ってついてきな」
そう言って暫く歩くと、壁に囲まれた行き止まりに着いた。そう見えたのだが奥には裏口のように扉だけがあった。男がそれを開くと、下に降りる階段が続いていた。薄暗い階段を降りると、更に扉があった。今度の扉は鉄でできていて非常に重厚だ。そこから微かに振動を感じる。
「良いか、腰を抜かすんじゃねーぞ?」
得意げな男が扉を開いた。
そこにあるのは、地下にあるとは思えない程大きな会場だった。円状に数えきれない程の人々が広がっていて、大きく空いた中央に向かって思い思いに叫んでいるが、あまりの騒がしさにルミオは耳を塞いだ。
「負けたら許さねえぞ!」
「やったぞい! これで一億ミルの勝ちじゃ!」
皆が会場の中央を見ている。目を凝らすと、そこでは一人のヒトとオークが戦っていた。五人は少し人が少ない所に移って観戦する。
「成る程これは、凄まじい規模じゃのう!」
ハルシウスは歓声にかき消されない様に大きな声を出す。
「そうだな! 俺らはたまたま見つけられたけど、ここに居るのは誰かからの紹介で来た金持ちがほとんどだ! 世界中から集まってるぞ!」
中央ではオークとヒトの男同士の戦いが続いている。オークは戦斧を、ヒトは剣を持って戦う。ヒトが斬りかかる。オークはそれを戦斧で受け止め、蹴り飛ばした。既に戦局は決定していたようで、倒れたヒトにオークは近づいて行く。
「勝負は決まったみたいですね!」
リザードマンの男が否定した。
「いや、まだだ!」
オークは大きく振りかぶって人の頭を切り飛ばした。ルミオの顔が青ざめる。しかし周囲の人々は下卑た笑いを浮かべていた。ハルシウスは表情を変えずに尋ねる。
「何故選手達はかような殺し合いに参加するのじゃ?」
「ここで戦ってるのは、警備会社の中から引き抜かれた選りすぐりの狂ったやつらだ。自ら望んで死地に赴く」
ここで、司会の大きな声が会場中に響き渡った。
「さあ、次はエキシビションマッチです! 誰かこの男に挑戦するものは居ませんか。勿論自分の奴隷を使ってくれても構いません!!」
すると、会場中からブーイングが起こる。
「誰も死なないエキシビションじゃ興味ねえんだよ! 早く続きを始めろ!!」
「そんなやつ勝てる訳ないだろ!」
ブーイングに負けない様に、司会は更にボリュームを上げる。
「落ち着いてください、誰も勝てないからそう言ってるだけで、この男を殺すのは構いません! さあさあ、挑戦者は前へ!!」
中央には一人のダークエルフの男が立っている。さっきのオーク達に比べると細身ではあるが、ここからでも強靭な肉体が分かる程にその赤黒い身体の全身には艶があった。司会者が盛り上げようとも誰も挑戦者は現れず、ブーイングだけが続いた。
暫く待って、観念したように両手を上げた。
「……仕方ないですねえ、今回の景品はこれ。このダークネスロッド! 闇魔法特化の最高級の杖にします!」
会場がどよめく。司会が手にするのは、長く、そして真っ黒で光沢のある杖だった。
「あれが噂の……」
「何と禍々しい……」
ルミオはハルシウスの方を見た。
「ハルさんに似合いそうですね! あの杖」
しかしハルシウスはわなわなと身体を震わせており、それを見たルミオは驚いた。
「あ、あの……」
「わしのじゃ」
「え?」
「それはわしのじゃ!」
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