第11話

 スイートドリルの討伐は四日間に渡った。最初は楽しそうにやっていた二人も、四日目になると表情を変えずに黙々とスイートドリルを倒して行く。

「これはいつになったら終わるんじゃろうな」

スイートドリルの頭を叩いて気絶させながらハルシウスが呟く。

「えーっと……おばさんは、ある程度討伐すれば残りのスイートドリルは諦めて帰って行って、新しい狩場を探すから果樹園を狙ってこなくなるって言ってましたけど」

初日とは異なり、果樹園の上空を飛び回るスイートドリルはほとんど居なくなり、二人は暇を持て余す。

 すると、雇い主であるケンタウロスの女が家から出てきてそこからこちらに向かって叫んだ。

「おーい! スイートドリルももう来ないだろうし、これで終わりにするわよ。おいで!」

二人は目を合わせて喜び、家へと向かった。

 家の中に入ると、テーブルへ様々な料理が次々に並べられている途中だった。

「これはどうしたのじゃ? おばさま」

ハルシウスが料理の一つ一つを見回しながら尋ねた。

「今までお世話になったお礼だよ、じゃんじゃん食べてくれ」

二人は言葉に甘えて夕食を一緒に食べさせてもらうことにした。

「あんたら、この国に来たばっかりなんだろう。どうだい、この国は?」

全てを平らげた後、お茶を飲みながら女が尋ねる。

「とっても良いところじゃ! 大きいし果物は美味いし」

「そうですね。それに綺麗で治安も良さそうです!」

二人が笑顔で答える。相当満足しているようだ。それを見て女にも笑顔がうつる。

「それは嬉しいね。今日でこの仕事は終わりだから、良かったらこの国を満喫して行きなさい」

二人は、お腹を一杯にして宿へ帰って行った。

 宿への帰り道。

「今日はご飯を頂いたので遅くなりましたね」

既に日は落ちかけている。

「そうじゃのう。プリシラもおらぬじゃろうな」

宿へ戻ると、案の定プリシラは既に居なかった。ルミオは思い出したように尋ねる。

「明日からはどうしますか?」

二人はそれぞれのベッドに腰掛けて考える。

「そうじゃのう……多少余裕は増えたし、明日は調査に行くのが良いと思うが、どうじゃ?」

ルミオはうーんと首を捻っていたがしばらくして頷いた。

「……そうですね、僕も行きたいです」

「じゃあ、決定じゃな」

 それからは二人はぼーっとしていた。ハルシウスは杖を眺め、ルミオは槍を手入れしている。外からは夜の街の賑わいが部屋中に届いていた。

 ふと、ハルシウスは口を開いた。

「のう、街へ行って見ぬか?」

「どうしたんですか、急に」

ルミオが顔を上げる。

「おばさまも言っておったじゃろう。わしはこれ程賑わっている街が如何程のものか見てみたい。それに明日から早起きせぬとも良いからな」

「そうですね……。僕も特に今日はやることも無いので行きましょうか」

二人は宿を出て街へと繰り出した。

 街では昼とは異なった店や屋台が開いていた。それらを眺めながら、通りを歩いていく。すると、ハルシウスがあることに気付いた。

「のう、あやつはどこに行っとるのじゃろうか」

指差した先では、一人の男が裏通りに入って行った。

「そうですね。遠くてちゃんと見えないけどお金持ちそうですね」

確かに小太りなその男は、扇を手にし、指には宝石をいくつもはめている。

「……あっ! よく見たら他の方も裏道に入って行きますよ」

ルミオの言う通り、一見散らばっていてわかりづらいが、通りの全体を見回すと他にも似たような人々が色んな所で通りから外れて裏通りへと入って行ってた。

「面白そうじゃのう。ついて行ってみるか!」

 二人も裏道へと入って行った。男を追って裏道へと入るが、既に居なくなっていた。

「どっちに行ったんですかね」

「うーむ……取り敢えずこっちに行ってみるか」

二人は奥へと進んでいった。

 しかし20分後、二人は途方に暮れていた。

「……完全に道に迷ったな」

「……そうですね。どうしましょうか」

周囲を見回すが、通りの賑わいは既に感じられない。

 二人が頭を抱えていると、三人のリザードマンがニヤニヤしながらこちらにやってきた。一人が声をかける。

「お二人さん、こんな所で何してるんだい?」

「おお、丁度良かった。道に迷ってしまっての。教えて貰えないじゃろうか」

三人は顔を合わせた後に、笑い出す。

「ははっ、それは困ったよなあ。だが、ただで教える訳にはいかねえなあ」

もう一人が前に出て、手のひらを前に差し出す。

「有り金、全部置いていけ。そしたら教えてやるよ」

ハルシウスは暫く黙っていたが、なるほどと手をたたくと、三人と同じようにニヤニヤと笑い出した。

「それは困るのう、お主らにあげる余裕は無いのじゃ」

お金の入った袋を振って硬貨の音をジャラジャラと鳴らしながら挑発する。

「どうやら酷い目に会いたい様だな。お前ら、やるぞ!」

三人が一斉に襲いかかってきた。全員拳に炎を纏っている。しかし、ハルシウスは炎を気にせず一人一人素手で受け止め、投げ飛ばした。ぶんぶんと拳を振って火を消しながら三人に近づく。まとまって倒れている三人に戦意は既に無くなっている。

「のう、教えてくれぬか?」

「な、何でこんなに強いやつがこんな所にいるんだよ! お前まさかあそこの選手か⁉」

ハルシウスが尋ねると一人がガクガクと震えながら叫んだ。

「選手? 何のことじゃ」

「しらばっくれるな! こんな所まで来てその強さ、道を間違えてわざと絡んできたな! 早く会場に戻れ!」

 ハルシウスとルミオは顔を合わせて首を傾げた。尚も男がうるさく喚いているのを見て、ハルシウスは杖から火を付けて小さく可愛らしいウサギを作り、男に向かって飛ばす。急に飛んできてびっくりした男は「ひっ」と叫び、両腕で顔を覆った。ウサギは男の目前でぴたっと止まる。

「わしらはこの国に来たばかりで何も知らんのじゃ。一から説明を頼むぞ」

ウサギは男の前で元気に飛び跳ねていた。

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