終章

エピローグ みんなでアイスを

 ピーンポーンという謎の音が、駅前広場を相変わらず支配している。


 五月晴れ、という言葉をまんま体現したかのような青空が広がる中、俺と虹は天音が乗っている電車を待っていた。


「ねえ龍羽~、なんで日曜日なのにこんなに早い時間に待ち合わせたの? ゆっくり寝れなかったじゃん」

「早い時間って……。もう正午なんですけど……」


 寝起きのせいか虹は少し不機嫌だ。そろそろこいつの生活習慣を本気で叩き直すべきなのかもしれない。

 時刻表によると天音が来るまではもう少し時間がありそうだ。それを知ってか知らずか、虹はちゃかちゃかと携帯をいじり始めてしまった。


 俺には、これから何が起こるかわからない。天音をハーレムに加えきることが出来るかどうかも、今日このあと天音が虹に何を話すのかも。あとチャイムマンが挨拶を返してもらえるようになるのかとかもな。


 でも、それでいい。いや、それがいいのだ。


 これからのことが全く予想できないから、わからないから、ワクワクする。


「あ、天音来たよ」


 見ると太陽に煌めく黒髪が、圧倒的なオーラを放ちながらこちらに近づいてきていた。

 夏の足音は少しずつ大きくなり、急かすように俺たちの気持ちを掻き立てていく。ブルーバックに浮かぶ白い雲が、いつかのあの言葉のように俺たちの背中を押していた。


「お待たせ虹、龍羽君」

「ううん。今来たところ」

「ああ。どこかの寝坊助のせいで、ちょうど来たばっかりだ」

「も~龍羽はすぐそういうこと言う!」


 ただ取り戻しただけのはずの日常は、なぜか今まで以上に眩しい。


「ねえ、天音。そういえば今日はどこに行くの?」

「あー、その事なんだが……」

 頭をぼりぼりと掻きながら、会話に割り込む。

「天音の行きたいところとかが無ければ、俺に決めさせてもらっていいか?」

「ええ……私は構いませんけど……?」

「ありがとう。ちょっと行きたいところがあるんだ」

「どこに行くんですか?」

「ん? それは着いてからのお楽しみってことで」


 そう言うと二人は不思議そう顔を見合わせる。


 まあ、もったいぶってはいるが、これから俺が行こうとしているのは、あのアイスクリーム屋だ。天音と虹、そして虹と俺が訪れたあの店。


 別にあの店でなければならない理由なんて無い。ただ三人でどこかを訪れるならあの店以外に考えられなかったのだ。あの店のアイスには甘くて酸っぱいものがぎゅうぎゅうに詰まっているから。


 電車が次の駅へ走り始める音が響いてきた。


 これから先、俺たちの関係はどんどんと変わっていくだろう。ハーレムに新しい人間が加わったり、誰かと誰かとの間に亀裂が生じてしまったり。


 だからそんな時は、みんなでアイスを食べに行こう。それを俺の宗教の戒律にしよう。


 だって人間関係が変化していくときにみんなで食事をすることの大切さを、どこかの家の変な祭が教えてくれたから。繋がりが欲しくなったら、絆を確かめたくなったら、アイスを食べに行こう。


 目の前に広がる道は、照り返す太陽の明るさで眩しいくらいだ。


「さあ、行くか!」



 そんな輝く未来に。

 大きく一歩、踏み出した。

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異世界に転生できるわけでもない普通の男子高校生の俺は、このままではモテないのでとりあえず新興宗教でも作って女の子を信者にしてハーレム作ろうと思うんだが おぎおぎそ @ogi-ogiso

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