第37話 サソリ系お嬢様

 俺としてはとにかくさっさといじめの有無を確認したいのだが、面と向かって「この子のこといじめてますか?」なんて訊けるわけもない。とりあえず今は櫻井とこいつらの関係性について少しずつ探りを入れていくことにしよう。当然、俺の目的は伏せたままで。


「たまたまこの辺を通りかかったら、彼女の姿を見つけたので声をかけてみたまでです。もしかしたらお邪魔でしたか?」

「いえ全く。あなた程度の存在、私たちにとっては邪魔にすらならないので構いませんが……」


 こいつは一言ひとことに毒を仕込まないと気が済まんのか。前世はサソリか何かだな。

「ただ茜高校の方がこの辺りを通りかかるとは……。おかしな偶然もあるものですね」


 足元の芝生がサッとざわめいた。


 ――しくったな。


 確かにしがない公立高校に通っているような奴が、こんな高級住宅街にたまたま立ち入るとは考えにくい。どうやらこの西園寺とやら、頭は切れるほうらしい。


「俺もこの近くに住んでいるものでして、本当にたまたまですよ」

「あなたのような身なりの者が、この地価の高い土地に住んでいるわけがないでしょう。それともあれかしら。そのお召し物もドブネズミが着ているからみすぼらしく見えるのかしら」

 俺の苦し紛れの言い訳を容易にあしらいつつ、毒も忘れない。……マジでイライラするなこの女。


 これあれだわ、需要無いタイプのS女だわ。単純な暴言じゃ人気は出ないぞ? 背筋がぞくぞくするような興奮を引き出せる言葉じゃないと。まあ、俺はMではないからよくわからないけど。うん、本当によくわからないんだけどね。

 しかし、彼女の発言は内容だけを見れば正論だ。あ、もちろん前半の方ね?


「恥ずかしがらなくってかまいませんのよ。だってあなたは櫻井さんの彼氏なんですもの。わざわざ会いに来たんでしょう? 彼女のために」

 一度頭の良い奴だと認識してしまうと、全ての言葉に裏があるような気がしてならない。今の発言も、「純粋な愛情によって彼女に会いに来たんでしょう?」とも取れるし、「彼女をいじめから救うために来たんでしょう?」とも取れる。


 しかもいじめの有無に関しては確信が得られないようになっているから、これを狙ってやっているのだとしたら正直恐ろしい。

 しかし、ここまで読み切れればとりあえずは問題ない。尻尾を出さないように注意して返答すれば良いだけのことだ。


「敵いませんね、まったく。ええ、その通りです。愛しい彼女の顔を見るためにわざわざ来たんですよ」


 そう言うと櫻井は耳まで真っ赤にして俯いてしまった。いや、そこ照れる所じゃないから。


「皆さんはここで何を――?」

 逆にこちらから質問してみる。

「私たちですか? 私もちょうどそこでたまたま櫻井さんに会ったものですから、旧交を温めていたんですの」

「旧交?」

「ええ。今でこそ櫻井さんとは違う学校ですけど、もともとここにいる皆白椿女学院の学生でしたのよ。初等部の頃は、それはそれは毎日仲良く過ごしたものです。恋人なのにそんなこともご存じなくて?」

 相変わらず西園寺の言葉は毒々しい。


「いえ、櫻井が白椿に通っていたのは知っていたのですが、皆さんがお知り合いとは……」

 あと、お前らの仲が良かったってのも初耳だな。電車での話じゃ櫻井は孤立していたみたいだけど。もしかして誰かが独りぼっちになっている状態のことをなかよしって言うんですかね。りぼん派の俺にはその辺よくわからないな。


「すると皆さんは久方ぶりの再会ということになるんですか?」


 会話のペースを握られないよう、とにかく質問を重ねていく。

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