異世界に転生できるわけでもない普通の男子高校生の俺は、このままではモテないのでとりあえず新興宗教でも作って女の子を信者にしてハーレム作ろうと思うんだが
第32話 美少女とヌートリア~ストーカーのかほり~
第32話 美少女とヌートリア~ストーカーのかほり~
ちょうど二人分空いたシートに並んで腰かけ、一定のリズムで揺られる。
隣に座る櫻井は、先ほどから黙ったまま一向に口を開かない。
「……あー、なんかごめんな。こんなストーカー紛いのことしちゃって」
「い、いえ! 何の説明もしなかった私も悪いんです! だから謝らないでください」
頭を下げた俺を慌てたように手で制止する。
怒っていないようで何より。顔面ヌートリア男が追いかけてきたとか、下手すりゃ裁判沙汰だからな。
さて、そろそろ本題を切り出さないとな。
「それで? なんで最近一人で帰ってたんだ? わざわざ虹に『忙しい』って嘘をついてまで」
俺の言葉に櫻井はタハハと苦笑う。
「ばれちゃいましたか、やっぱり」
「いやばれるに決まってるだろ……。忙しいって言いつつあんだけ悠々歩いてちゃ」
ストーキングしていて気づいたのだが、駅に向かう途中彼女は全く急ぐ素振りを見せなかった。友達と帰る約束を蹴るほどの用件があるとは到底思えない。
「確かに。そうですよね」
櫻井はクスリとほほ笑む。その笑顔に、こんな状況でもつい見惚れてしまいそうになるのだからたいしたものだ。
しかし彼女はすぐに笑みを引っ込め、悲しげな表情で問う。
「……虹は――?」
「気づいてるみたいだったぞ」
「やっぱり……。虹は勘が鋭い所がありますからね」
確かに虹は勘が鋭い方だが、別にそれが要因ではないと思うぞ。親友とは相手の気持ちには本能的に気づくものなのだ。たとえどれだけ上手く隠したとしても。虹の俺に対する気持ちなんかがいい例だ。
そんな思いは心にとどめ、俺は話を進める。
「何か悩みとかあったのか? 一人で帰るような。その……人間関係が上手くいかないとか」
生理? とは訊かない。そんな事訊こうものならまず確実に殺される。……できれば線路の上では死にたくないなぁ。鉄道会社への莫大な損害賠償で家族まで死んじゃうから。死んでも厄介者とか辛すぎるから。
「えーと……まあ、そうですね。そんな感じです。あ! でもそんなに深刻ってわけでもなくて。とにかく私は大丈夫ですから!」
気丈に振る舞うその姿が痛ましい。
これまでの姿から櫻井の悩みを見抜けなかった俺でも、さすがにその嘘は看破できる。中学生から今まで一緒に過ごしてきた日々を舐めてもらっちゃ困るぞ、櫻井。
「……相談してくれよ。友達だろ?」
「いやでも、雨宮君に迷惑をかけるのは気が引けるというか……」
そう言って伏し目がちになった櫻井は、遠慮しているかのように声を落としていく。なんだよ、言いたいことがあるならはっきり言えよ。まさかお前も「人の心が無い人間に相談はできない」とか言わないよな? ……言われたら泣く。割とガチで泣く。
「まあ確かに、男の俺には相談しづらいこともあるかもしれないけど……。だとしたら虹に頼れば良いじゃないか。あいつならほら、頼りがい……は無いにしろ絶対親身になってくれるだろ」
「…………」
そう言って櫻井の様子をうかがうが、返事は無い。
電車の速度が緩やかになってきた。車輪とレールが刻むリズムも遅くなる。
しばらく沈黙を貫いていた櫻井が再び口を開くまでに、列車は完全に停止していた。
「……雨宮君は知ってます? 私がどうして白椿から転校してきたか」
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