第21話 観覧車は二度回る

「……なあ、虹。実は今日のデートは……」

「良いよ、言わなくて。大体わかってるから。龍羽が何かを企んでるってこと。それに何を企んでるのかも……見当はついてる」

 虹は、サプライズに失敗したのはわたしだけじゃないみたいだね、なんておどけてみせやがる。


「……それに、それでもいいの。……龍羽のしようとしてること全部わかっていたとして、そのうえで、それも含めたうえで……それでもわたしは龍羽と先に進みたい。だから……だから龍羽の気持ちを教えて……?」

 いつの間にか、観覧車はその長い旅を終えようとしていた。当然、煌めく夜景もその姿はとうに見えなくなっている。


 なのに……なのになんでお前だけずっと瞳にアクセサリーを浮かべたままなんだよ。ずるいだろ、それは。「涙は女の武器」とはよく言ったもんだな、まったく。


 ゴンドラの外では係員が今にも扉を開けようとしている。

 だがここで外に出されてしまったら、正直、この後まともに虹と話せる自信がない。なんか、うやむやになって終わってしまいそうな予感がする。


 俺はとっさにピースして係員にアピールする。イェーイ見てるー? ではない。二周目のお願いだ。……というか今どきもう一周乗るとかできるんだろうか。いろいろ面倒くさい世の中だから、そもそも無理かもしれない。

 と思いきや、案外簡単に係員は俺たちの二周目を許してくれた。きっとゴンドラの中の様子を見て、何事かを察したのだろう。相変わらず無気力な表情をしながらも、はいはいと適当な感じで頷いてくれていた。ここでこの修羅場に割り込んでいくことのほうがよっぽど面倒だと感じたのかもしれない。


 再び空への旅を始めた俺たちは、乗り場にいた人々が見えなくなる頃になってようやくもとの空気感を取り戻す。それまで場を支配していた静寂は俺が次に発すべき言葉を、そしてその言葉を彼女に届ける勇気を与えてくれていた。


「……虹、俺は自分の夢を、願望を諦めるつもりはない」

 普通の男だったら、目の前の女の子に全てを捧げる選択をするような状況だが、情けないことに、この期に及んでもまだハーレムを望んでいる自分がいた。


 俺は率直に言って女好きだ。大抵の女の子は可愛いと思ってしまうし、簡単に恋心のようなものを抱いてしまう。だから、何人もの女の子に囲まれていたいという欲望は未だに揺らぐ気配を見せない。


 そもそも虹を悪用しようと企むより先に、俺にはハーレム願望があったわけだ。虹という安牌があるからハーレムを狙ったわけではない。

 だからたとえ、虹という俺にずっと好意を寄せていた人物と交際関係になれるとしても、俺にはハーレムを諦めるという選択肢がまるで浮かんでこなかった。言ってしまえばこのシチュエーション自体、ハーレムを創るためにはうってつけの好機なわけだし。


 ただ、だからと言っておいそれと純真な気持ちを利用するというのは、さすがに俺のミジンコ程度の良心が痛む。

 だからせめて虹が傷つかないように努力しなければ。この期に及んで誤魔化すつもりなどさらさらないが、虹のためにも肝要なところはできる限り言葉を濁そう。まあ、虹のことだから全部理解してしまうかもしれないけど。


「虹、俺が今しようとしていることは……その、なんだ……常識的に考えて到底許されるようなことじゃない。もしこの計画を企てていたのが自分以外の人間だったら、俺は本気でそいつを張り倒す勢いだ」


 これだけ脳みそが沸いているようなことを言っているにも関わらず、虹は表情一つ崩す素振りを見せない。もしかすると本当に全部ばれていたのかもしれない。末恐ろしい子だ。


「ただ、お前はさっきそれでも構わないって言ってくれたよな? 俺が何を考えていようが構わないと」

「……うん」

「だから卑怯なのは承知の上で、その優しさに甘えさせてほしい。……そうじゃないと自分の気持ちも伝えられないほど、俺は臆病だから」


 俺は深く息を吸い込む。

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