第10話 二日酔いヌートリア
平日用の時間よりも少し早めにセットされたアラームが、胃もたれ気味の俺を叩き起こした。
二日酔いのような身体の重さとは裏腹に気分は軽く、今日が俺の誕生日であり、生まれて初めてのデートの日でもあることを思い出させてくれる。
「朝飯食って、虹を起こしに行くか……」
片手でデジタル目覚ましの頭頂部にチョップを決め込みつつ、俺はゆっくりと身体を起こす。
カーテンを開いた窓から差し込む爽やかな太陽光は角度が浅く、今がまだ生まれたての朝であることがわかる。
俺は大きく伸びをしてから部屋の扉を開け、廊下に出た。いまだ寝ている両親を起こさぬよう、静かに階下へ降りていく。
……トースターに食パンを入れて、コーヒーメーカーをセットしたら顔を洗ってしまおう。朝ごはんはこれと目玉焼きぐらい作れば、まあ十分だ。
それよりも問題は服装だろう。デートに行くのだ。あまりみっともない格好はしたくない。とは言っても、俺のクローゼットなんかほぼほぼバーコードだもんなあ……。どうしたもんか。
「……って、俺は何考えてんだか」
いつのまにか案外デートを楽しみにしてしまっている自分がいることに驚く。いやまあ、たとえ幼なじみといえども、女の子と二人で遊べるということは当然嬉しいんだけど。
ただ、今回のデートにはもっと大きな目的があるのだ。
宗教的ハーレムという楽園をつくるために、まず手始めに虹を落とさなくてはならない。今日のデートでは、信奉に繋げるため虹の心の弱みや悩みを探し出す必要がある。そしてあわよくば、今日中にでも虹を手中に収めてしまいたい。
そのためには、デートといえど浮かれ過ぎず冷静であるべきだ。きちんと虹を観察し、心の弱みを握る。ハーレム王になるために必要不可欠なこのデートの目的を、危うく見失うところだった。
「……順番、変えるか」
朝食の準備のためにキッチンに向けていた足を洗面所の方へターンさせる。
洗面台で鏡とにらめっこすると、そこに映った顔のなんと冴えないことだろうか。何この間抜けな顔、ヌートリアかよ。
そんな表情に苦笑しつつ水道のレバーを引き、きりりとした朝の水に手を浸す。
そのままその水を手ですくい、寝ぼけた眼とにやけた心を覚醒させるために、ひたすら顔にかける。おお、さっぱりして気持ちいい。
ヌートリアがカピバラくらいにまでなったところで、俺はその清らかさに満足した。……それってあんまり変わってなくね?
レバーを動かし、水を止める。
そのかわりとばかりに溢れだした野望を胸に、俺は今度こそ朝食を用意しようと、ハンドタオルで顔を拭きつつキッチンに向かうのだった。
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