異世界に転生できるわけでもない普通の男子高校生の俺は、このままではモテないのでとりあえず新興宗教でも作って女の子を信者にしてハーレム作ろうと思うんだが
第6話 苦手はあるのに甘手は無いのはなんでだろう
第6話 苦手はあるのに甘手は無いのはなんでだろう
「危ねー! ギリギリセーフ!」
アウトだよ。毎日毎日、図ったかのようにチャイムと同タイミングで教室に駆け込むようなお前の生活スタイルがアウトだよ。お前陰でチャイムマンって呼ばれてるんだからな。
クラスの面々にとってはこれまた朝の恒例行事であるため、特に気に留める素振りを見せる者はいない。
そして俺たちは、この後にこいつと櫻井との間で繰り広げられるものを見るまでがルーティンであることもまた知っているのだ。
「おはよう、櫻井さん!」
チャイムマンは自分の席に腰を落ち着けると、無駄に高いテンションを振り回しながら、隣に座る櫻井に朝の挨拶をした。ああ……櫻井の顔を見る限り今日もダメっぽいな、こりゃ。
「……ぉ……おは……ようございます…………」
虹と話していた先ほどまでの快活さはどこへやら。櫻井は蚊の鳴くような小さい声で返事をした。
まあこの様子を見れば普通の人なら気づくと思うが、一応説明するとしよう。誰に向けての説明か分からんけど。
見ての通り、櫻井は男子と接触するのが極端に苦手である。……あ、いやチャイムマンだけが嫌われているっていう可能性も無いとは言えないのだが、だとしたら毎朝欠かさず挨拶をするチャイムマンは相当な強メンタルの持ち主ということになるな。
だが別に彼の精神力が五十三万もあるわけでは無い。俺の目から見る限りたったの五くらいだろう。
そうではなく、問題がある(という表現が適切なのかは分からないが)のは櫻井の方だ。
実は櫻井は、本来こんな公立高校に通うことが考えられないほどのお嬢様である。
実際、小学校の頃は名門の私立の女子校に通っていたらしい。いわゆるお嬢様学校として名高い所で教員さえも女性しかいないと、風の噂で聞いたことがある。
加えて、櫻井は一人っ子のため男兄弟と話をするなんてこともなかった。そのため幼少期に男子に対する免疫を作ることが出来なかったのだ。
その結果がまあ、あの通りである。男子とはろくに会話できないどころか、顔を見ることすらままならないような有様だ。中学生の頃から共に過ごし、虹を通した交流も深かった俺だけが、唯一の例外ってところか。
櫻井自身としても男子と話せないことを気にかけ、なんとかしようと努力はしているみたいなんだが……まあ、一朝一夕に解決するなら苦労はない訳で。
『………………』
結局、中途半端な挨拶をしたきり、二人の間には天使が何人も通り過ぎることになるのだ。
だがしかし、この男子嫌いは彼女にとってデメリットばかり、というわけではない。
ここでようやく先ほどの話に戻る。
あくまでこれは俺の持論だが、あの子が周りの女子から恨みを買わずに済んでいるのは、男子が苦手という部分がプラスにはたらいていることも大きい。
周囲の女子としては、自分の意中の男子が奪われるようなことがないと分かっているから安心して見ていられるのではなかろうか。まあそれはつまり俺が誰にとっても意中の男子ではないってことなんだけどね。……なんか涙出てきたわ。
そんなことを考えていると教室の前扉が年季の入った音を響かせながら開き、担任が入ってきた。
「よーし。ホームルーム始めるぞー」
その声と同時に委員長が号令をかけた。
起立、というお決まりの台詞と共に立ち上がる。ああ、今日も授業という名の苦行が始まってしまう。走ってまで頑張って学校に来たはずなのに、もう帰りたいってどういうこと?
着席、との声を聞いて椅子を引くついでに、黒板に書かれた時間割を確認する。どうやら今日の一時限目は倫理のようだ。
昨日の失態もあるからな。せめて今日は十五分は起きていられるように頑張ろう。
そんな風に自分を鼓舞しつつ。
俺はいつもと変わらず温んでいる教室の空気感に身を浸して、いつもと同じようにまどろんでしまうのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます