第3話 新宿の母の戸籍上の扱いってどうなるんだろう

 あーやっぱり不審に思ってたか。まあそうだよな。

「別にたいしたことじゃねぇよ。単純に人助けがしたくなっただけで」

 もごもごと音をこもらせながら答える。頼む、誤魔化されてくれ。


 まあ、人助けがしたいという点に関してはまるっきり虚偽の発言というわけでもない。

 実際俺は(ハーレムを創るという邪な感情を抱きながらではあるが)、女の子たちの悩みを解決することを念頭に置いているのだから。

 相手の利だけを考えるのではなく、お互いの利益を考える。そんな人助けがあっても良いと私は思うのです。


「絶対嘘。第一、今までまともに他人の気持ちを考えて生活してなかったじゃない。一番付き合いの長いわたしの気持ちですら慮ろうとしたこと無いでしょ?」

 全くその通りでございます。私は恥の多い生涯を送って来ました。人間として失格でございます。

 しかしここでバカ正直にぶちまけるわけにもいかない。

「まあ待て待て。確かに今まではそうだったかもしれないが、これからもそうとは限らないだろう?」


 俺はジト目で睨みつけてくる虹の視線から逃れるように、得意の詭弁を召喚する。

「いいか? そもそも一定不変のものなんてこの世に無いんだ。宇宙の存在然り、自然の原理然り、人類の営み、ひいてはその個人個人の性格もまた然りだ。昨日のあの人と今日のあの人は同じようでいて全く違う。例えば、かの有名なガンジーを見てみろ。あんなに素晴らしい人間だって、小さい頃はなかなかにヤンチャしてたんだ。人っていうのは変われるんだよ」

 そうさ、今までは全然モテない人生だったけど、これからはキャッキャウフフなハーレムライフだ。……人っていうのは変われるんだよ。


「またそうやって屁理屈こねる。あのねえ……わたしがいつから龍羽を見てきたと思ってるの? そんなに簡単に変われてたら今頃龍羽は神様とか仏様とかを凌駕する勢いの聖人だよ……」

 うん。実際今それ目指してますし。

「あ、そうそう。神様で思い出したけど今日の倫理の授業、最後の方やけに楽しそうにしてたよね? もしかしてそれも関係あったりするの?」

 うわやべえこいつ。まじでエスパーかよ。……でもたぶん俺あくだから、相性的には俺の勝ち。イェーイ。


 まあでも、虹には昔からこういうところがあった。やけに勘が鋭かったり、天才肌だったり。苦手なのは運動ぐらいで、それ以外は何でも器用にこなしやがるし、今回はもしかすると超能力でも会得したのかもしれない。虹ならそれぐらい簡単にやりかねない。

 そんな考えが表情に出ていたのだろうか。虹はニヤリと嫌な笑みを浮かべた。

「その顔を見る限り図星って感じだね」

「お前その才能生かして占い師かなんかやれよ。絶対儲かるぞ」

 俺のそんな魅力的な提案に対し、彼女は無情なため息を一つ吐く。

「できるわけないでしょ。今のはずっと一緒に過ごしてた龍羽の事だから解っただけ。……でもそのくせ龍羽は全然わたしのこと解ってくれないんだもんなぁ……」

 むぅと唸りながら、虹はだんだんとボリュームを下げていく。その表情はなぜか知らんがいじらしげだ。


「ごめん、最後の方何言ってるか全く聞き取れなかった。早めに耳鼻科受診するからもう一回言ってくんない?」

「絶対嫌!」

 何が怒りに触れたのか、虹はその可愛らしい顔を赤く染めた。おいおい、熱くなるなよ。溶けるぞ、そのアイス。

 そう思って彼女の器に目をやると、先ほどまでそこに入っていた薔薇色の物体はとうにその姿を消していた。お前いつの間に食ったんだよ。今の今まで俺と会話してたろ。逆流系腹話術か。

「まあとにかく。あんまり馬鹿な真似はしないでね。龍羽が変な事すると一緒にいるわたしまで変な目で見られるんだから」

 アイスの味に満足したのか、虹はふう、と息を吐いた。

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