第2話 甘いのはアイスだけで充分

「んん~おいひ~!」


 結局、奢ってしまった。

 目の前に座る彼女は今、カップの中に可愛らしく盛られたアイスを口に運び恍惚の表情を浮かべている。

「やっぱりこのお店のストロベリーアイスは絶品だよ~! もしかしたら天音と来た時よりも美味しくなってるかも!」

 虹は以前にもこの店を訪れたことがあるのか、どうやらこれを食べるのは初めてではないらしい。


 アイスクリーム店といいつつも、軽快な洋楽が流れている店内はさながら喫茶店のようであり、平日の昼下がりだというのに空席はほとんど見受けられない。


「いや~これも雨宮龍羽様の人助けのお蔭ですな~。ありがたやありがたや」

「あ~もうわかったわかった。いいから黙ってさっさと食え」

 そう言いつつ、俺は冷房の効いた店内に歯向かうような熱いブラックコーヒーをすする。

「も~、龍羽ってば冷たいんだから」

 それはアイスの冷たさとかけてるのかな? うん、お上手お上手。


 すると虹は、唐突に何か閃いたような表情を浮かべた。

「あ! もしかして龍羽も一口食べたい? じゃあ、はい、あ~ん」

 え、いやそういうの困るんですけど。ただでさえ店内には大勢のカップル(笑)がいるんだぞ。俺たちもそういう間柄だと誤認されかねん。

「いらねぇよ。はよ食ってくれ」

「いいからほら、あ~んして。溶けちゃうから」


 ああダメだ。経験上、こうなると虹は後には退かない。ぽわぽわした癒し系の見た目をしているくせに、意外と頑固な所があるから困る。

「……あ、あ~ん」

 仕方なく俺は口を開け、淡いピンクを乗せた匙を受け入れる。

 先ほどまで口の中を支配していた香ばしい苦みとは真逆の、柔らかく甘い、ほのかな酸味を纏った味わいが鼻腔をも虜にする。あ、確かに美味いな、これ。今度は一人で食べに来よう。


「で?」

 虹が話の脈絡を遠投しつつ、ひらがな一文字で俺に何がしかを問うてきた。

「で? って何だよ。なに、味の感想でも言えばいいの?」

「それが美味しいことはもうとっくにわかってるから。そうじゃなくて」

「何だよ」

「困ってる人を教えて欲しいってさっきの。いったい何を企んでるの?」

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