第14話

 九重紫。

 自分にも人にも厳しい。

 

 そんな彼が、どうして。


 察しが悪いなんて言われても、通り魔を九重君だと思うわけがない。

 どこで気づけって言うのよ。

 てっきり、女だとばかり――


 けど、これでわかった。

 なぜ葵さんが、私たちに写真を撮るなと言ったのか。

 葵さんは調査を進めていくうちに、通り魔の正体に気がついたのね。

「ど……どういうことだよ!? 九重が通り魔!? 話が全く見えないんだけど!」

 藤原君が騒ぎ始める。

 私だって訳がわかってないわよ。

「これには深い訳があるんだよ……」

「んなもん後でいい。貴様はさっさと止めに行ってこい」

 背中を蹴り飛ばされた一宮君は、戦いの場へと転がるようにして出て行った。

「一宮君!?」

 突然現れた彼を見て、中村さんは驚きの声を上げる。

 ……一宮君と中村さん……面識があったのか。

「後は任せてくれたまえ! 貴女はそこで伸びている幼なじみを避難させるといい」

 格好悪い登場の仕方にもかかわらず、彼は堂々としていた。

「さぁ、そろそろ終わりにしようか。これ以上続けるのは難しいようだ」

 一宮君は九重君……いや、通り魔に向かって言い放つ。

 虚ろな目で、彼女は一宮君を見つめる。

「……なぜ?」

 体は九重君のものだというのに、発せられた声は別人のように聞こえた。

「まだ……まだ終わってないわ……貴方……私に嘘をつくの……?」

 終わってない……?

「嘘なんてついていないさ。約束は果たしたよ。もう十分復讐したじゃないか」

 ……復讐!

 やっぱり通り魔は、亡くなった剣道部の女子生徒だったのね!

 私はわけがわかっていない様子の藤原君に説明してあげた。

「えーっ! じゃああれは、九重だけど九重じゃないってこと!?」

 ややこしいけど、まぁそういうことね。

「幽霊っているんだぁ……」

 信じたくないけれど、目の前で起きていることは現実ですものね……

「幽霊が九重に取り憑いているってことだよな?」

「そういうことなんでしょうね……」

 頭が痛くなってきそうなので、深くは考えたくない。

「嘘つき。貴方は嘘つきよ。私の不幸な事故からもう何年もたつというのに、この場所は今も昔も変わっていないわ……。月ノ坂に平穏が訪れない限り、私の復讐は終わらない!」

 彼女は、一宮君に竹刀を向けた。

「邪魔をするなら、貴方にはもう用はないわ」

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