第12話

「どうしてこんなことになっちゃったのかしらね」

 夜。

 時刻は21時を回ったか。

 お巡りさんに見つかれば、間違いなく補導される。

 ……まぁ、制服を着ているし、そのときは塾帰りだと言い訳すればいいか。

「何がだよ?」

 私の疑問に、藤原君が首を傾げる。

「よく考えてみれば私たち、九重君を取材するつもりだったでしょ。いつの間にか通り魔のことを調べているなって」

 あ、本当だ。と、彼も今更気がついたようだった。

 しかも同じ九重でもお兄さんのほうと行動を共にしている。

 ――奇妙な展開になってしまった。

「……おい、あれ」

 そんなお兄さん――葵さんが、目的地である月ノ坂を指差して立ち止まった。

 ……何かしら?

 目を凝らしてよく見ると、園田さんの姿が確認できた。

 もう来ていたのか、張り切っているな……とか、色々言いたいところだけど……

「……不良に絡まれてるじゃん」

「絡まれているわね……」

 藤原君が呆れた口調で言ったように、園田さんは他校の不良たちに絡まれていた……。

 何を言われているのかは、この距離ではわからない。

 ただ、さすがの彼も、不良に胸ぐらを掴まれちゃあ何も抵抗できないということはわかった。

「やぁ、君たち。遅かったじゃないか」

 そんな私たちにのんびりとした口調で声を掛ける者がいた。

 ……一宮君だ。

「……そういう貴方はずいぶん早くからここにいるようね」

 一度帰ると言っていたわりには、彼は制服姿のままだった。

「そんなことないさ。つい先程着いたばかりだ」

「だったら見てないで彼を助けてあげたら」

 ヒィヒィ悲鳴をあげている園田さんに目をやりながら、私は冷たく言った。

「えー、そのくらい自分で何とかしてほしいなぁ」

 ……こいつ……

「俺の出る幕なんてないよ、清原さん。もうすぐ彼女が現れるからね」

 ――彼女。

 それは、通り魔のことか。

 はたまた……

「――なんだ、テメェ!」

 園田さんがいるほうから、怒鳴り声が聞こえてきた。

 私たちは一斉にそちらに目をやる。

 そこには、赤い着物の日本人形みたいな女――、通り魔その人が竹刀を手に立っていた。

 出た!

「藤原君!」

「おう!」

 部費で購入したカメラを構える藤原君。

 私たちは、ギリギリまで通り魔たちのいるところまで近寄った。

「おい、写真はやめておけ」

 しかし、葵さんに止められる。

 その訳は、彼女の姿を見て気がついた。

 あれは。

「中村さん……」

 先程インタビューと称して話を聞いた剣道部の主将、中村千代子さんその人で間違いない。

 髪を下ろしているが、彼女だ。

「やっぱりグル!?」

 園田さんが推理したように、中村さんが通り魔ということは、これは幼なじみ二人が仕組んだものであると確定したのも同然だ。

「……一宮君。貴方、最初から二人がグルだってわかっていて、挑戦を受けたの?」

 私がそう問いかけると、彼は微笑んだ。

「最初から……って、どういうことだよ!?」

 藤原君が驚いた声をあげる。

「そうだなぁ……最初からというか、確証はなかったけれどね。園田さんが通り魔の正体を知っていると言ったことには、おかしいと気づいていた。なぜなら、俺は本当の通り魔の正体を知っているからな」

「……!」

 そんな気はした。

 葵さんもわかっていたのか、冷たい目で一宮君を見ている。

 藤原君だけが一人、驚いていた。

「まぁ、見てなよ。準備はできている」

 一宮君の笑みは、正義の味方……というよりかは、悪役のようだった。

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