第3話

「記事は逐一チェックさせてもらうからな」

 なぜか、一宮君まで九重君の取材に参加することとなった。

 いちいち口を挟んでくるから、うるさくて仕方がない。

 これは……邪魔だな……

「あれもこれもダメダメって……何を聞いても全部ダメじゃんかぁ! 一宮、邪魔!」

 藤原君も音を上げてしまった。

 今はこうして大人しく邪魔されてやっているけど、実際記事にするときは一宮君のダメ出しなんて関係ないから。

 耐えるのよ……藤原君……

「帰り道までついてくる気なのか!?」

 放課後、九重君と談笑しながら下駄箱の所まで歩いていたら、一宮君が悲鳴を上げるように言った。

 私と藤原君はおろか、九重君までもがうんざりとした表情となっていた。

「何てしつこい連中なんだ……新聞部! まるでマスコミのような鬱陶しさじゃないか!」

「……二人はどっち方面なんだ?」

「私、電車なの」

「俺はチャリ」

 一宮君をスルーして、私たちは会話を続けた。

「ああ、そうか! なら徒歩の俺たちとは一緒に帰れないな!」

 ……うるさいな……

 途中までは一緒に帰れるっつーの……

「……光……」

「ん? 何だ、紫!」

 九重君はジトッとした目で一宮君に言った。

「なぜ俺たちは一緒に帰る前提で話が進んでいるんだ?」

「……」

 一撃必殺を食らった一宮君は固まる。

「……え? 一緒に帰らないのか?」

「一人で帰れ。俺は二人と帰るから」

「俺だけ仲間外れ?」

「だって嫌なんだろう? だったら一人で帰れ」

 九重君、ナイス!

 私と藤原君は密かに九重君にエールを送る。

「同じ所へ帰るのにどうして一緒に帰ってくれないんだ!」

「うるさい」

 全く相手にしてくれない九重君にすがりつく。

 はっきり言って見苦しい。

 ……そんなこよりも。

「二人は家が近いの?」

 少し気になったので聞いてみた。

 するとなぜか、一宮君は輝くような笑顔になった。

「俺は今、紫の家に居候しているんだ!」

「……」

 一方で九重君は知られたくなかったという顔をしている。

 ご愁傷様です……九重君……

「何で?」

 藤原君が無邪気に訳を尋ねる。

「あまり言いたくはないんだがな……両親と折りが合わなくてだな……」

「へぇー。ケンカして家出したんだ? だっせぇ」

 ちょっ……藤原君! やめなさいよ! 小学生みたいな煽り方しちゃって!

「ださくない! 家出じゃない! 独立したんだ!」

 あんたも小学生みたいに言い返すな!

 どいつもこいつも……子どもか!

「寝ても覚めてもこいつの顔を見なければならないから、学校くらいは視界に入らないでほしい……」

 それって相当精神にきてない?

 九重君……いつかノイローゼになるんじゃないのかしら……

 彼の顔色を見て、少し心配になる。

「またまたぁ~。そんなこと言っちゃって。本当は嬉しいくせに~。ツンデレなお前も好きだぞ!」

「九重……大変だな……」

「ああ……」

 告白の言葉が聞こえた気もするが、あえて聞かなかったことにしよう。

「というわけで! 俺と紫の愛の登下校は誰にも邪魔させない!」

「……」

 九重君の肩に手を回すが、彼には最早抵抗する気力すら残っていないようだ。

 ごめん……九重君……私たちもドン引きしてしまって貴方を助けることができない……

「さぁて、紫……今日はどんなことしようか……」

 不敵に微笑みながら、一宮君はげっそりしている九重君の顎に手をかける。

 どうすることもできない私は頭を抱え、藤原君は何を思ったのか、少し大きめの石を拾っていた。

 その石で……何をする気なんだろう……

「一緒に風呂に入って、同じ布団で寝て……あんなことやこんなことをしようじゃあないがはぁっ!」

 一人で燃え上がり始めた一宮君の頭にどこからか飛んできた鞄が命中して、彼は倒れた。

「汚らわしい。そんなことさせるか」

「ぐへっ!」

 さらに踏みつけられた一宮君は、潰れた蛙のような声を上げる。

「葵……!」

 一方の九重君は、心なしか顔に元気が戻ったような気がした。

「無事か、紫」

 切れ長の目に、整った顔立ち。

 この人は……九重あおい

 九重君のお兄さんだ。

「平気だ。いつものことだから」

「ダメだろ、それ」

 弟の紫君が有名なのだから、当然兄の葵さんも有名だ。

 美形兄弟として知られているが……

 私としてはこの二人……似ているようで似ていないという印象を受けた。

「さっき妙な話が聞こえたがお前、この変態に何かされていないだろうな?」

「大丈夫だ……。俺の部屋には入ってこられないようにしてある」

 それを聞いて、葵さんは満足げに頷いた。

「紫はガードが堅いから……暇潰しに葵の部屋を物色させてもらっているぞ」

「……は? 死にたいのか、貴様」

 踏みつける足にさらに力を込める。

「痛い! 嘘です! してません!」

 ギブギブ! と、一宮君は地面をバンバンと叩く。

 九重兄弟の視線はますます冷ややかになっていく。

「はぁ~あ……どうせ踏まれるのなら紫に踏まれたかった……」

「……」

 余計な発言から、九重兄弟による無言の攻撃が始まった……

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