第2話

 ……出た……

 声を聞いて、少しうんざりしながら後ろを見た。

「……来ると思っていたわ。一宮いちのみや君」

 爽やかな面立ちの男子が、腕を組んで立っていた。

「へぇ。俺は貴女のことをよく知らないのに、貴女は俺のことを知っているような口ぶりだね。清原さん」

 ……貴方のことを知らない人はいないんじゃないのかな……

 自覚はないのだろうか……

「どういうわけで俺が現れるとわかったのか知らないが! 俺の許可なく紫を取材しようだなんて認められないな!」

「マネージャーかよ」

 ……わかっていた。

 九重君に近づくためには、この一宮ひかる君を何とかしなければいけないことは。

 一宮君は九重君とは対照的で、明るくて話しやすい人だ。

 ただし、九重君のこととなると、人が変わる。

 基本的には爽やかで誰にでも親切な彼だが、九重君に近づこうものなら相手が女子であろうと容赦ない。

 これが、女子どころか男子からも敬遠される理由である……

「ただでさえ目立っているのに、これ以上紫の良さをバカな女どもに知られてしまうなんて! 我慢ならない!」

 一斉にクラスの女子たちが一宮君をにらんだ。

「紫のあんなことやこんなことを俺だけが知っていればいいんだ!」

「清原さん、藤原。こういうのは正直苦手だけど、できる限り協力はする」

 さっきまで全く乗り気でなかった、九重君の態度が豹変した。

「ちょっとちょっとちょっと! 何快く引き受けているんだよ!? 今の聞いてた!?」

「うるさい。貴様には関係ないだろう」

「関係あるよ!! 事務所の許可なくそんなもの許しません!」

「何だ、事務所って」

 何がともあれ、九重君本人の許可は得られた。

 私たち的には万々歳である。

「まさか……清原……こうなることを予測していた?」

二人のやりとりを見て、藤原君がおそるおそる尋ねてきた。

 さぁ? 何のことかしら?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る