第一話 自己紹介は3分にまとめよう

 ケツ丸出しで何故か縛れている男、酒々井和雪30歳。ついさっき別の世界からアリナによって召喚されたのだ。見た目は誠実に見えるが、彼の今の醜態はとてもいい大人とは言えない姿だった。


「あなたは誰? ここは何処? 私はだあれ?」

「いや、自分の名前ぐらい知っといてくださいよ」


 軽いツッコミをするアリナに対して、和雪は少し荒っぽく問いかける。


「というか、ケツにミソ付けた三十路を誘拐して一体何が目的なんだ? 身代金か?」


 和雪は自分の身に何が起こったのか呑み込めない様子である。それもそのはずだ。さっきまでトイレに居たのに、突然見に覚えのない部屋に移動しているのだ。アニメでよく見る瞬間移動みたいに……


「いえ、身代金なんていりません。それに誘拐ではありませんし。

 わ、私はただ…… あ、そうだ!」


 彼女は慌てた様子でポケットの中から紙を取り出し朗読し始めた。


「私は魔術師のアリナと申します。好きな食べ物はプレッツェルです。趣味は好物のプレッツェルの食べ歩きです。この部屋は私の書斎で今は一人で住んでいます。長所はいろんな魔法が使えます。短所は人前で緊張しやすいことです。それから……」


 突然、10分くらい悪い例みたいな自己紹介をし始める彼女を見て、和雪は顔をしかめる。そして、彼はアリナの自己紹介を遮るように質問を続けた。


「いやいや、急になんで自己紹介!? 怖いんだけど。俺が一番聞きたいのは目的は何ってこと!」


「あ、そ、そうですよね。要するに私は、友達が欲しいんです……。 どうか私とおところだち。あ、いや。お友達になってください!」


 和雪はあまりにも予想外な返答にぽかーんと開いた口が塞がらない。誘拐されて、ケツ丸出しで縛られてる今の自分に友達になってくれとはいったいどういうことだ? わけのわからない事を言って、俺が混乱している所を見て楽しもうとしているのか? いわゆる一種の愉快犯か? いろいろ思慮を巡らすが、何一つ理解に及ぼなかった。考えすぎでフリーズしていたが、なんとか口を動かせた。


「い、いやです……」


「え!? なんでですか!? お願いします。パシリでも何でもしますから友達になってください!」


 彼女は大げさにも土下座を繰り出してくる。要求する内容がとても土下座してまでお願いすることではないのに。愚蒙すぎる彼女の姿を見ると、だんだんと気が抜けてくる。これまでの出来事は何一つ理解できていないが、一つだけ分かった。この娘は今まで出会った中で一番馬鹿だということを。


「つーか。ケツ拭かせてくれ‼」


 彼女は縄を解いてくれて、トイレに行かせてもらった。












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