ワスレナグサ
佐倉総悟
プロローグ 最悪なタイミング
「今日はこのような機会を頂きありがとうございます。今回あなたのお話を取材させていただきたく参りました」
丁重な挨拶をする中年の男に向かい合って長髪の女が腰を掛けていた。
「ではさっそくですが、━━━━━事件について聞かせてください」
「わかりました。そうですね……これはあの出会いから話しましょうか」
自分の書斎の床に真剣に何かを描く赤髪の少女アリナ。傍から見れば、ふざけて落書きでも描いているんだろうと怪しむだろう。しかし、彼女はいたって真面目である。
「ふう、やっと描き終えた」
額の汗を拭う彼女の姿を見れば、先ほどの作業がいかに大変な物か想起させる。描き終えたものはファンタジー物をよく知る者が見れば、すぐに察するに違いない。
魔法陣だ。彼女は数時間掛けて魔法陣を描いていたのである。
そして、アリナは魔法陣の中心に花を一輪置き、魔法陣から離れる。
この一連の流れは、別世界の住人を呼ぶ召喚儀式に必要な行為だ。
すると、魔法陣は書斎いっぱいに輝きを放った。輝きは時間が経つにつれ失っていくと、摩訶不思議にも一人の男が現れたのだ。
────や、やった。ついに成功した!
だが彼女の喜びも束の間、男の様子の異変に気が付く。男は下着、ズボンともに足首まで下げ、空気椅子をしていた。アリナはその光景を目の当たりした瞬間、合点がいく。人間がだれでも必ずしなければならない生理的行動。すなわち排便だ。またはうんこ。あるいは大きい方である。
アリナは男と目が合い、「え?」と両者ともに声を漏らす。彼女は視線をゆっくりと下に向け、床に落ちてる黒い物体を発見するや否や悲鳴を上げ、男の顔面に前蹴りを繰り出したのだった。
それがアリナと男の最低で汚い出会いである……
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