第16話®️

彼は教室に入った。


先に教室に入っていた先程の友達が彼を見つけて手を振る。

いつもの仲間も一緒におはようと言いながら手を振る。


その光景を見て、昨日と同じだもんな…と彼は思った。

僕は昨日、彼らより後に教室に入った。

昨日と同じ行動を取れば侵入を受けている人達は僕を認識するのだな…彼は少し切なくなったがすぐに気を取り直した。


「おはよう」彼は挨拶すると、昨日とは違う行動をとり、自分の席に座った。


振り返り仲間を見てみると、何事も無かったかのように談笑している。


彼は教室を注意深く観察した。


隣の席で話しているクラスメイトは、今日のトラベルの授業の話しをしている。


どうせ昨日と同じことをするんだ…そう思いながらも、彼もトラベルの授業に思いを馳せた。


昨日、もう少しでできそうだった…だって僕は頭の中でその場所の景色を見た。

昨日は時間が足りなかった。

時間さえあれば、きっとトラベルできるはずだ。


トラベルの原理は教科書に書いてあるし、僕はそれを理解している。

僕はある程度、トラベルについて父に教わっていたし、近くまでなら一回だけだが、トラベルを成功させた経験もある。


昨日の授業では、トラベルの前段階までだったが、明後日のトラベルの授業では目的地まで行く実習をするはずだった。

しかし、この状態では実習をする時間は永遠に来ないだろう…。

今日、必ずトラベルを完成させる。

この授業だけは皆と同じ行動をとってはいられない。


「完成させなければ… 万が一の時… 一瞬で、より遠くへ行けるように…」彼は呟き、もう一度、教室を注意深く観察した。


彼が見る限り、昨日とさして変わらない教室の風景が映し出されている。

先程の少女のように姿がハッキリしている人も見受けられない。


彼はため息をついて正面を見た。


教室の扉が開き、先生が入ってきた。


「さぁ、席につけ」毎朝のお決まりのセリフだ。


先生の姿もあの少女のようにハッキリとは見えないようだ。


「さぁ、今日は何日だ?6月20日だな…では6月20日の朝礼を始めるぞ」

先生は昨日と全く同じセリフを言った。


ああ…先生もか…


彼は大人の仲間がいてくれると心強いと思っていたので、少し先生には期待をしていた。

昨日と同じ言動の先生を見て、彼は残念で仕方なかった。


やはり…か…と彼はつぶやくと、小さなため息をついた。



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