第13話®️


姉の部屋のドアをノックし、声をかけた。


「お姉ちゃん…ただいま…あの…心配かけてごめんね…今日から学校に行くために帰って来たよ…」

しかし姉の部屋からはゴソゴソと身支度をしているであろう音しか聞こえて来ない。


少女は不安になりながら「お姉ちゃん!お姉ちゃん!」と言いながらドアを強く叩いたが、返事はない。


少女がさっきよりも大きな声で「なんで無視するの!なんで見てもくれないの!ねぇお姉ちゃん!…ねぇ…怒ってるの?」と言ったその時、ドアが開いた。


制服に着替えた姉は、部屋から出て来た。

正面にある少女の部屋のドアを一瞬見て真顔になった姉は、小さなため息をつくと、そのまま少女を見ることなく階段の方へと進んで行った。


あまりにも様子がおかしい姉の姿に衝撃を受けながらも、少女は姉の後を追い、後ろから姉の腰に抱きついた。

腰を抱えられ、身動きが取れなくなったのか、姉は立ち止まった。


少女は素早く正面に回り、姉の顔を見上げたが、姉は正面を向いたままだった。

少女がお姉ちゃん…と声をかけようとしたその時、正面を向いたままの姉の目の中で黒い何かがぐわりと蠢いた。

少女は驚き、姉から飛び退いた。


「お姉ちゃん…」少女が呟くと、姉は何事もなかったかのようにとんとんと階段を下りて行った。


そして下から姉の声がした。

「ねぇ、あの子がおばあちゃん家に行ってからそろそろ一ヶ月よ。お父さんもお母さんも心配じゃないの?」姉は両親を責めるような口調で言った。


下で祖母が「連れて帰って来たわよ。今さっき、あなたを追いかけて一緒に二階へ上がって行ったじゃない!」この家の異様さを感じていた祖母のその声には、恐怖の色が感じられた。


「早く学校に行きなさい」祖母の言葉を無視するように母が言った。

父は黙って食事を続けているようだった。


姉は何も言わずに強めにドアを閉め、家を出たようだった。


「一体、どうなっているんだ…」一階で祖父が呟いた声が、二階にいた少女の耳に、やけに大きく響いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る