第12話®️
少しだけ離れた場所にある大きな木まで、2人は無言で歩いた。
木の裏に隠れるように2人は並んで座り、お互いの情報を交換し合った。
少女は今朝早く家に戻った。
それまで、車で3時間ほどかかる場所にある母方の祖父母の家で1ヶ月ほど過ごしていた。
その間、学校も休んでいたという。
その理由を聞くと、自分の家が嫌いだったから…とだけ答えた。
そう答える少女の雰囲気からは、少女の家庭環境があまりいいものではないであろう事は容易に想像できた。
少女は祖母にそろそろ帰って学校にも行った方が良いと諭され、今朝方、祖父母の車で送ってもらい、登校に間に合う時間に家に着いたのだ。
家のドアを開けると、父母と姉が食事をしていた。
皆静かにもくもくと食事をしている。
少女は家族のいつもの食事風景を見て、帰ってきた事を後悔してしつつ「ただいま…」と言ってみた。
3人は少女へ目をやることもなく、静かに、ただもくもくと食事をし続けている。
家族のその様子を見て、少女は、やはり受け入れてもらえないのかと悲しい気持ちになった。
それを見かねた祖母が、母に声をかけた。
「朝早くにごめんね。昨日、連絡を入れたでしょ。ほら連れてきたわ。今日から学校へ行くそうよ」
祖母は明るく軽快に声をかけたが、3人は自分たちの他には誰もいないかのように、ただ、もくもくと咀嚼を続けている。
その光景に祖父母と少女は何か異様な雰囲気を感じた。
いくら会話の少ない家庭であっても、こんなに話しかけているのに、ここまで完璧に無視できるものか…少女は、いつもと同じようでいて同じじゃないこの光景に違和感を覚えた。
祖父母と少女は、無言で3人の様子を見つめていた。
祖父母も違和感を感じているのだろう、少女の肩にかかっていた祖母の指に、わずかに力が入ったのが伝わってきた。
「ごちそうさま」姉が口元を拭き、席を立った。
姉はドアの前に立っている祖父母と少女に目をくれる事なく二階へと続く階段を登っていった。
姉のその姿に少女は絶対におかしい!普通じゃないと思った。
この家で少女の味方は姉だけだった。
この1ヶ月、姉は少女を心配し、祖父母の家によく連絡をくれていた。
早く帰って来てね。待ってるからね。そう言い続け、帰ってきたら2人で海に行きましょうと約束もしていた。
そんな姉が自分を見ることもなく、存在すらしないかのように振る舞うなんて…ありえない…
少女は姉の跡を追い、二階へ駆け上がって行った。
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