第10話®️

彼は学校へ向かう道中、何かあの蠢く影の情報はないかと最大限のアンテナを張り、注意深く周囲を観察しながら進んだ。

しかし、いつもの日常が展開されていだけだった。


彼は思い出した。

学校近くのパン屋の扉には、いつも日替わりパンの商品名が貼り出されていた!


彼は駆け足でその店に向かった。


店の前に着き、扉に貼ってある紙を確認すると、そこには昨日と同じパンの商品名が貼り出されていた。


「やはりここもか…」彼はどんよりした気持ちになった。


もうすぐ学校に着く、いったいどれだけの人があの蠢く影に侵入されているのだろう…

どれだけの人が昨日を繰り返しているのだろう…

果たして自分と同じように侵入されていない人はいるのだろうか…ここに来るまでにそんな人とは出会っていないけれど…


早く行って確かめたいような…でも、行くのが怖いような…そんな複雑な思いを抱えながら彼は、いつもより重く感じる足で歩を進めた。


少しずつ、学生の姿が増えてきた。


辺りをよく観察してみるが、自分と同じように侵入を受けていない人がいるかはまだ解らない。

どの人も蠢く影の侵入を受けているようにも見えるし、受けていないようにも見える。


誰か知っている人はいないか…

昨日を過ごした友達や先生…誰か…


彼は目立たないように気を付けながら、きょろきょろと落ち着きなく目を動かした。


見つけた!

クラスメイトだ。

クラスの中でも仲良くしているし、昨日もほぼ一緒の時を過ごした。

トラベルの授業でも隣にいた。


彼は早足に友達に近づいて行った。


どうか…どうか…友達は…正常でありますように…


彼は祈るような思いで友達の隣に並んでみた。

友達には彼は見えていないのだろう、友達は真顔のまま歩いて行く。

その様子を見て、彼は大体の予測がついたが、「おはよう…」と声をかけてみた。


友達は前を見て歩いている。


…そうだよな…昨日の朝、こいつとは教室で朝の挨拶を交わしたんだもの…


想像はしていたが、覚悟はしていたつもりだが、こいつもか…と思うと、やるせなさが込み上げ、彼は泣きそうになりながらうつむいた。


これから学校に入ったら…教室に行ったら…自分以外はみんな侵入されていると思った方がいいだろう…彼は自分に強くそう言い聞かせた。


…でも、ひょっとしたら…


胸の奥から湧いてくる、淡い期待を消し去ることができないまま彼は、自分を認識していない友達と一緒に学校の門をくぐった。


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