第9話®️

彼は昨日と同じ1日が展開している事を悟った。


あの蠢く影に侵入されたら…

その人はきっと、侵入を受けた日と同じ1日を過ごすのだろう…


父は猟銃を持ち、母が作ったお弁当と飲み物をバッグに詰めた。


「おとうさん!行かないで!」それでも彼は必死に、懇願するように父の背中に呼びかけた。


父は「早く帰るから」と母に伝え扉を開けた。



ああ…もう…きっと…止められないのだろう…父は…帰って来ないのだろう…


小さくなってゆく父の背中を見送る彼の目からは、一筋の涙がこぼれていた。


彼は昨日という最悪の一日を、またしても今日、経験するのだ。


彼は絶対にあらがえないこの展開と、絶対にあらがえないと感じている自分の無力さに唇を噛んだ。


「さぁ、あなたも早く学校に行かないと」母は食器を片付けながら言った。


学校になんて行ってられる訳がない!


諦めきれない彼は、あらがえないと感じつつも、何か方法があるかも知れないと模索し始めていた。



彼はハッとした。


学校へ行けば、自分以外にも蠢く影の侵入を受けていない人を見つける事ができるのではないか…


やはり学校へ行ってみよう…

誰か自分と同じで、この状況に気付いている人がいるかも知れない!


それに、昨日は学校の授業でトラベルの練習もあった、この先の事を考えたら、トラベルだけは習得しておかなければならない。

彼は本能的にそう思った。


食卓の上に置かれた自分の弁当と水筒を持ち、彼は一旦、部屋に戻った。


部屋の窓からは外で遊んでいる弟の姿が見えた。


昨日、自分が学校へ行く準備をしていた時、弟は外でこんな風に遊んでいたのか…


彼はそう思いながら弟の姿を目で追っていた。


すると少し離れた隣の家から友人が出て来た。


学校へ向かっているのだろう、彼の弟に気付いた友人は、弟にひらひらと手を振っていた。


この友人も、きっと昨日と同じ1日を過ごすのだろう。


学校に行くと、何人の先生や生徒がそうなっているのだろう…


彼は学校に行くのが怖くなったが、やはり確かめなければならないと思った。


きっと誰かは気付いているはずだ。

なんとしても、その人達と力を合わせて、この状況をどうにかしないといけない。


彼は自分にそう言い聞かせ「行って来ます」と母に声をかけ、扉を開けた。





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