第8話®️

僕だけが違う…彼は愕然とした。


昨日とは別の行動を取っていたのは彼だけだった。


自分は蠢く影に侵入されていないのか?

だとしたら、どうなるんだ?

家族はどうなる?自分はどうなる?


彼の頭の中はパニック寸前だった。


彼は父親が持っている新聞に目をもどし、

「おとうさん!その新聞は昨日のだよ!なんで昨日の新聞を読んでいるのさ!今日は6月21日だろ!おとうさん!こっちを見てよ!おとうさん!おとうさん…」彼は叫んでいた。


父は新聞を置き、何事もなかったかのように「じゃあ、2人とも楽しみにしとけよ」と言いながら席を立ち、狩へ出かける準備を始めた。


父を狩に行かせてはいけない!

昨夜、父は帰ってこなかった。


その時、彼はふと思った。

もし昨日をやり直しているのだとしたら…

ひょっとしたら、自分が皆んなを助けられるのではないか…

彼は僅かながら、希望を見つけたような気がした。


「おとうさん、行かないで」彼は父の腕にすがった。


「おとうさん!今日は海岸の方へ行かない?家族で!釣りにしようよ!」


昨日は天気が良かった。

砂浜なら影は少ないだろうと彼は考えた。


しかし父は、彼が父の腕にすがってみても、するりと腕を抜き、狩の準備を進めてゆく。


彼は気を取り直して、次は母に言ってみた。

「お母さん!海岸へ行こうよ!皆んなで釣りをしよう!今日は天気もいいし、たくさん魚が釣れるよ」母にそう言ってみても、母は朝食を頬張るだけだった。


「お兄ちゃん!今日はどこまで行けるかな?学校でトラベルの練習をするんでしょ?」弟がきらきらと目を輝かせながら聞いてくる。


昨日、彼は「そんなにすぐに出来たら天才だよ、今日は基礎の基礎を教わるんだから。

でも、お兄ちゃんは一番にできるようになるぞ」と冗談っぽく弟に言った。

弟は「わー!お兄ちゃん!頑張ってね」と言いながら抱きついて来た。


彼は昨日と違うことを言ってみた。


「トラベルの練習なんてしないよ。お兄ちゃんは今日、家族で海岸に行くんだ。おまえも一緒に行くだろう?」


彼は弟の言葉を待った…


すると弟は「わー!お兄ちゃん!頑張ってね」と言い、抱きついて来たのだった。



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