第7話®️
彼は目を覚ました。
いつもと同じ様に、部屋には明るい光が射している。
寝起きのぼんやりした思考の中、昨夜のそれを思い出した。
あの寝起きのふわふわとした、なんとも形容し難い幸せな時間は一瞬で吹き飛んだ。
彼は緊張し、耳を澄ませてみる。
この部屋で弟の寝息が聞こえてこないか…
母が朝食を作る音が聞こえてこないか…
外からは、父が薪を割る音が聞こえてこないか…
他の人達が生活している音が聞こえてこないか…
その時、「お兄ちゃんおはよう」と弟が元気よく部屋に入ってきた。
彼は驚いた。
弟は嬉しそうに彼にしがみつく。
そんな弟に戸惑いながらも彼は弟を抱きしめた。
彼を見上げ、弟が満面の笑みを見せる。
つられる様に彼も笑う。
「起きなさーい、ご飯ができたわよー」母のいつもの声だ!
あぁ…そうか…眠っている間に、やはり蠢く影は僕を襲ったのだ…
でも良かった…
これでよかった!
家族と一緒にいられる!
彼は目に涙を浮かべながら弟と手を繋ぎ、キッチンへと向かった。
食卓には父もいた。
あぁ…お父さんにも会えた!
もうずっと家族と一緒にいられるんだ!
昨日のような辛い思いはしなくていいんだ!
彼は満たされた思いで食卓に着いた。
「おとうさん、おはよう!」彼は父に挨拶した。
父が新聞を読んでいる。
ふとその新聞を見ると、日付は6月20日だった。
彼は背筋がひやりとする感覚を覚えた。
恐る恐る「おとうさん、その新聞、昨日のだよ?」と言ってみた。
父は顔を上げ、彼を見てにこりと笑い「今日は天気が良さそうだな、森に狩りにでも行ってこよう」
彼は青ざめた。
その言葉は昨日の朝食時にも聞いた…
青ざめた彼の顔を見て、父はもう一度優しい笑顔を向け「鳥がいいか?兎がいいか?」と聞いてきた。
弟は嬉しそうに「両方!」と答えた。
父は「欲張りだなぁ」と優しい笑顔を弟に向け「楽しみにしてろよ〜」と言いながら、弟の頭をなでた。
母は「楽しみね」と言い、弟に笑顔を向けていた。
彼は絶望した…
思い返してみれば…今朝 目覚めてからの一連の出来事は全く同じだった。
全ての展開が昨日の朝と全く同じだったのだ。
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