第6話®️

あれからどのくらいの時が過ぎただろう…


彼は持ち運び用の明かりを床に置き、膝を抱えて座っていた。


もう涙は出ない。

思考も停止しているのか、何も考えられない…

ただ、自分の鼓動と呼吸の音だけが耳にこだまする。


ずっと今日の出来事だけが頭の中でリピートしている。


何時間経ったろう…別の何かのように感じる自分の体をぞろりと動かし、自分の部屋の窓から外を見てみる。


やはり窓から見える景色に明かりは灯っていない。


彼はその景色をただ目に映すと、体を元に戻した。


頭には何も浮かばない。

心の中は、寂しさも、悲しみも、恐怖も、何も無い空っぽの状態だった。



しばらくして、少し落ち着いて来たのか、先程よりも目に映る景色がクリアになった気がする。

すると思考も働き出した。


この暗闇の中、影ができてないのは目の前の明かりが届く範囲だけ。

背後には影ができているだろう。


自分も朝までには、母や弟と同じ状態になっているかもしれない。


そんな考えが頭をよぎる。


その瞬間、防衛本能が働き、頭の中で声が聞こえる「危険だ!」

彼はその声に支配された。

緊張からか身体に力が入る。

脳は逃げろと指示してくる。

脳の指令通りに身体が反応する寸前、彼の頭の中に、もう一つの別の考えが浮かんできた。


…それもいいかも知れない。


母や弟と同じ状態になれば…

ずっと一緒にいられるんじゃないか…

そうだ…母も弟も、友達一家もニコニコ笑っていたじゃないか!


きっと辛くないんだ。

苦しくないんだ。

今の自分の苦しみから解放されるのではないか…


彼はそう思うと、自分もその仲間になってしまう方が幸せかも知れないと思った。


そう考えていくと、どんどん恐怖感が無くなっていった。


そうだ…このまま眠ってる間に…自分が気が付かない間に、あの蠢く影がこの体に侵入すればいい。


彼は、自分が家族と一緒にいられるには、それしか方法はないと思った。


彼は目を閉じ、祈った。


さあ、蠢く影…

もう、僕を終わらせてくれ。


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