第5話®️
そろそろ周辺が薄暗くなり始めている。
彼は不安にかられなが家路を急いだ。
家が見えて来た。
おかしい。
外はもう薄暗さを増しているのに、明かりが灯っていないのか、家の中は真っ暗に見える。
さっきの友達の家を振り返る。
小さくなった窓からも、部屋の明かりは確認できない。
近くの家に目をやるが、どこの家にも明かりは灯っていなかった。
まずい!
あの蠢く影は、影の中を移動していた…
暗くなるとヤツらの活動が活発化する可能性が高い!
早く家に帰って明かりを付けなければ!
彼は必死に走り、家のドアを開けた。
かろうじて、まだ明かりを付けなくても部屋の中は解る。
目を凝らして室内を見回すが、2人がいない。
全速力で走ったのだ、ただでさえ早鐘のように彼の胸を打ち付けていた心臓が、不安と恐怖からか…一層早く、激しく打ち付けてくる。
いない。
どうしよう。
どこへ行ったんだ。
はあはあと息を切らしながら、とりあえず彼は、テーブルの上に置いてあった持ち運びのできる明かりに火を灯した。
明かりをゆっくり動かしてみる。
キッチンと、そこに続く部屋にはいない。
彼は歩を進めた。
トイレや浴室にも…いない。
残るは奥にある父母の寝室と、彼と弟が共同で使っている部屋だった。
彼は先に自分と弟の部屋を確認したが、やはりいなかった。
泣き出したくなるような恐怖の中、彼は祈るような気持ちで、最後の一部屋、父母の寝室の扉を開けた。
いた!
母と弟は既に眠っていた。
安堵からか、彼の目には涙が溢れ、今にもこぼれ落ちそうになっていた。
母の横で眠っている弟を起こさないように気を遣いながら、小声で「お母さん」と声をかけ、母の顔に明かりを近づけてみる。
母は目を開けたままだった。
衝撃的な光景に、彼は一瞬、母は死んでいるのではないかと怯えたが、母の口からは、すーすーと寝息が漏れ、きちんと呼吸しているのだろう、胸は上下していた。
弟の方にも明かりを向けてみる。
同じだ。
きっと、友達の家でも同じ事が起こっているのだろう…
友達の家だけではない、明かりが灯っていなかったあの近所の家々でも…
今まで感じた事のない恐怖と不安で、彼の頭の中はおかしくなる寸前だった。
自分が家族を守らなければとの思いが、辛うじて彼の正気を支えていた。
ショックで大声を出してしまわないように、自分の口を力いっぱい押さえ、彼は自分と弟の部屋に入った。
部屋の真ん中に座り込み、涙を堪え、過呼吸寸前の呼吸を整えようと布を口に当てた。
呼吸が落ち着いてくると、自然と涙が溢れた。
彼は口に布を当てたまま、制御することなく叫んだ。
口の中でこもったその声は、徐々に嗚咽へと変わっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます