23話 巨大スライム

「はぁっ!」


リンの一振りがスライムを真っ二つに切り裂いた。

スライムは消滅し、魔石へと変わる。


「少しもったいないね」


それを見てリンが呟いた。


「しょうがないよ。一々回収してたら大荷物になっちゃうからね」


魔石は放置する事にしている。

長期滞在になるのだ、一々回収していたら荷物がパンクしかねない。

レアドロップが発生した場合は回収を考えなくもないけど、まあ物次第だ。


「一々戦うのも体力の無駄だし、此処からは出来るだけ敵を避けて進もう」


正直スライム程度、相手にするだけ時間の無駄だからね。


「うん!」


リンは元気よく返事を返すと、そのまま駆けだした。

僕は慌ててそれを制止する。


「ちょちょちょっと、リン。走ったりしたら疲れちゃうよ」


今無駄な体力の消耗は避けようって言ったばかりなのに、ひょっとしてまだ緊張しているのかな?


「そ、それもそうだね。えへへ」


リンが足を止め、照れ臭そうに笑う。

その表情を見る限り、緊張はしていなさそうに見える。

となると、気が早ってのおっちょこちょいかな。


「もう、リンはしょうがないなぁ」


まあ可愛いから許そう。

可愛いは正義だ。


「ゆっくり落ち着いて進もう」


「うん」


その後は僕の指示に従って、魔物を避けて進む。

少なくとも3層迄の道ははっきりしているので――3層辺りまでは普通に他の冒険者達によって攻略されている為――僕達は迷うことなくエリアボスの間に辿り着いた。


中には魔法陣が輝いていて、その中心には巨大なスライムが鎮座していた。


こいつがエリアボスだ。

そのサイズは大玉ころがしの玉ぐらいはある。

通常の物がバスケットボール位だと考えると、かなりの大きさだ。


「リン。動きは鈍いらしいけど、触手には気を付けて」


ボスの情報もちゃんと収集済みだ。

こいつは大きい分パワーはあるが、その反面動きはかなり遅いらしい。

とは言え、体を触手の様に伸ばしての攻撃もあらしいので、油断は禁物だった。


「わかった」


近づくと、スライムの一部が触手の様に変形し此方目掛けて飛んできた。

それを僕でパリィしてリンは間合いを詰める。


「てやぁ!」


リンのショートソードがその巨体を切り裂く。

だが浅い。


刀身の短いショートソードでは、この巨体相手に一気に致命打を与えるのは難しそうだ。

倒すには、こまめにダメージを蓄積させるしかないだろう。


「きゃっ!?」


巨大スライムは体を揺らし、此方に体当たりしてくる。


「させないよ!」


僕がブレスを吐いて、その巨体を吹き飛ばした。

このブレスは相手がどれだけ巨体であろうと、問答無用で5メートルは吹き飛ばすのだ。


防御はリンに任せても良かったけど、一端間合いを置きたかった。


「どうする?ビームで倒す?」


超回復があるわけでもなし、切り刻んでいけば勝てない相手ではない。

だがそうなると、リンの体力が消耗してしまう。

そう考えるとビームで倒した方がいいんだろうけど……


僕はあえてリンに尋ねた。

自分の手で倒すというなら、それに異を唱えるつもりはない。

何故なら、それは彼女の自信につながると思ったからだ。


「これぐらいなら大丈夫!」


「わかった。じゃあビームは温存だ」


再び触手が伸びてくる。

リンは僕を使ってそれを弾き、間合いを詰めて切りつけた。

間合いが近くなるため、反撃に巨スライムの体当たりが飛んでくるが、リンは素早く僕でパリィする。


どうでもいい事だけど。

このスライムプルプルしてて気持ちいいな。


「はぁ!」


十数回攻撃を続けた所で、ダメージの蓄積によって巨大スライムは光の泡となって消えていく。


「凄いやリン!やったね!」


「サイガのお陰だよ!」


僕達はお互いを称え、ハイタッチする。


「じゃあこの調子で、次のエリアもパパっと終わらせちゃおう!」


「うん!」


第1層をクリアし。

その先にあるスロープを下り、僕達は第2層へと向かう。


まだ見ぬエリア。

情報はあるけど、初見には変わりない。

さあ、ここからが本番だ。

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