22話 緊張

「すーーーーー、ふーーーーーー」


リンが大きく深呼吸する。

これから向かうのは低難易度イージールート

しかも最初のスライムゾーンだ。


此処では何度も狩りをしたし。

今のリンなら僕無しでも全く問題ないレベルの場所なんだけど、それでも攻略と考えると緊張してしまうのだろう。


もう既に10回近く深呼吸してしている。


「リン。そろそろ行こう。深呼吸だけで日が暮れちゃうよ」


「う、うん。そうだね」


リンはがちがちだった。

けどまあ、体を動かせばすぐに緊張はほぐれるだろう。

案ずるより産むが易しだ。


「ん?」


その時、僕の範囲探索に生命反応が引っ掛かる。

その数は6。


「どうしたのサイガ?」


「誰かが下りて来るみたい」


恐らく冒険者だろう。

入口の方から向かってくるし、反応は人間の物だったから。


「あら、リンちゃんじゃない」


斜面を下ってきた一団が判明する。

それは見知った顔だった。


「ルートさん。それに皆さんも」


「よう、元気にしてたか」


探索者の面々だ。

どうやら彼らもこれから一狩り行くつもりなのだろう。


「随分と大荷物みたいだけど?」


「実は低難易度イージールートを、進める所まで進んでみようと思ってるんだ」


「2人で潜るのか?無茶す……いや、まあおまえらなら大丈夫か。なんだったらそのまま攻略だってあり得るかもな」


ゲイルは乱暴な手つきでぐりぐりと僕の頭をなでる。

首がぐわんぐわんするので、お返しにノックバックで吹っ飛ばしてやった。


勿論、彼なら受け身をとって怪我はしない前提での行動だ。

吹っ飛ばす方向もちゃんと考えている――障害物があるとそれに勢いよくぶつかってしまうから――。


「おっと!」


吹っ飛んだゲイルは空中でくるりと回転し、足から着地する。

彼は大剣使いだが、パワータイプの割にその身のこなしは軽い。


「おいおい、いきなり吹っ飛ばすなよ」


「人の頭を乱暴に扱うからだろ」


「ははは、悪い悪い」


ゲイルは頭を掻いて笑う。

このざっくばらんな性格は嫌いじゃない。

人間として転生していたなら、きっと彼とはいい友人関係を築けていたんじゃないかと思う。


「ま、あれだ。今度土産話を聞かせてくれ」


「考えておくよ」


だけど僕は所詮人形だ。

残された時間も限られている。

残念だけど、彼と交友を温めている余裕は無いだろう。


「リンちゃん!ファイトよ!ほら一緒に!」


ルートが握り拳を作って、笑顔でガッツポーズを見せる。


「あ、は、はい」


リンも慌ててそれに続く。


「声が小さい!もう一回!ファイト!」


「ふぁ、ふぁいと!」


「そうそう、その意気よ。頑張ってね」


「はい!」


リンの緊張を見抜き、解き解してくれようとしているのだろう。

いいお姉さんだ。


「それじゃあ俺達は行くけど、くれぐれも気を付けくれ」


リーダーのガロウさんはそう言うと、他のメンバーを連れて高難易度ハードルートへと潜って行った。

僕達はそれを見送った後、低難易度イージールートへと進む。


「よし!頑張ろう!」


「うん!ファイトだ!」


僕とリンは向き合ってガッツポーズをとる。

ルートとのやり取りで、少しは緊張が解けた様だ。

彼女には感謝しないといけないな。


「スライムが向こうから近づいて来てる」


範囲探索で周囲の様子を確認した僕は、奥を指さした。

その数は3体。

肩慣らしには丁度いいだろう。


「わかった」


リンは腰に掛けてあるショートソードを引き抜き。

僕の指さした方向へと駆ける。


さあ、いよいよ攻略の始まりだ。

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