21話 お休み
「干し肉、ドライフルーツ、乾燥野菜。あとは丸薬がこれぐらいかな?」
干し肉は1日12枚。
ドライフルーツは人間の手で一掴み。
野菜も同じ位。
丸薬は一日3粒を目安に、少し多めにバックパックに詰め込んでおく。
因みにこの丸薬は、糖を油で揚げた物に魔法で防腐処置を施したものだ。
軽く1年は持つ保存食で、サイズの割にそのエネルギー量も結構な物らしい。
その為携帯食料としてはすこぶる人気で、ダンジョン探索においての必需品と言っていいだろう。
「後は固形スープと塩かな」
最長1週間近くダンジョンに潜るのに、ずっと乾き物だけじゃ味気ないからね。
鍋は少し荷物になるけど、軽くて小型の物だからこれぐらいなら問題ないだろう。
「ありがとう、サイガ」
リンがシャワーを浴び終わって部屋に戻って来た。
白の長シャツ一丁の姿だ。
はしたないって注意しようかとも思ったけど、まあここには僕しかいないしいいか。
いいよね?
「ほら、座って」
「はーい」
リンが僕の言葉に従って、ベッドの淵に背をもたれかける形で座る。
僕はタオルを手に取り、その濡れた髪を丁寧に拭いてあげた。
きっと今の彼女の髪からは、さぞ石鹸の良い香りがする事だろう。
嗅覚が機能していないのが残念でしょうがない。
「いよいよ明日だね」
「うん。少し緊張する」
「ま、低難易度だし。今回はあくまでも下調べみたいな物だから。気楽にいこう」
僕はそう言って彼女の肩をポンと優しく叩く。
今回目指すのは
ゴールは難易度別に3つ用意されており、どのルートを攻略したかで手に入る
これは女神様に聞いた話だ。
低難易度の報酬は転移の玉というアイテムで、ダンジョン内で使えば一瞬でダンジョンの
僕達の求めるティティス様の祝福は、
だからまずは腕試しもかねて、僕達は
「うん、そうだね。何せ私にはサイガが付いてるんだもんね」
「任せて。僕がリンへの攻撃を全て防いでみせるよ」
「頼りにしてるよ!」
リンが振り返って、僕をぎゅっと抱きしめた。
僕も彼女を抱きしめ返す。
とはいっても僕は人形で手足が短いから、どちらかと言うとしがみ付く感じだけどね。
彼女の信頼には必ず答えて見せる。
その為にも、僕は今この瞬間も範囲探索を断続的に発動させていた。
別に彼女がダンジョンの外でも危険に晒されているから、という訳ではない。
常に範囲探索を行う習慣をつける為だ。
所詮人形である僕は、人間の様に自在に動き回る事が出来ない。
リンを守るとは言っても、実際敵の攻撃に合わせて動くのは彼女だ。
じゃあ僕自身に何が出来るのかと考えたら、出来る事はたった一つだけだった。
それは状況を正確に判断する事。
そしてそこから俯瞰で答えを導き出して、リンにアドバイスする。
それが僕の戦いだ。
あ、そういやノックバックでのバックアップもあったか。
まあそれも正確な状況判断ありきだよね。
「じゃあ明日も早いし、もう寝よっか」
そう言うと、リンはそのままベッドに滑り込む。
「そのまま寝たら風邪を引いちゃうよ」
季節は初夏に差し掛かっている。
暖かい陽気に包まれて、日中は暑いぐらいだ。
だが夜はまだ結構冷える。
シャツ一枚では風邪を引きかねない。
「そうだね。じゃあさっそく!」
そう言うと彼女はベッドから飛び降り、バックパックに詰めてあった寝袋を取り出す。リンは「じゃじゃーん」と言いながらヒマワリ柄の寝袋をベッドの上に広げ、それに包まった。
「実践前に試しておかなくっちゃね」
「やれやれ」
僕は肩を軽くすくめると、リンの脇に寝転がる。
勿論寝るつもりはない。
寝なくても大丈夫な事は分かっているから、今日も徹夜で範囲探索の継続練習だ。
「お休み、サイガ」
「お休み、リン」
リンは明かりを消し、目を瞑ると直ぐに寝息を立てだした。
相変わらず寝入りの良さは一級品だ。
しかし可愛い。
思った通り、リンにはヒマワリの花柄が良く似合う。
そんな彼女の寝顔を眺めながら、僕は練習に励むのだった。
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