20話 寝袋

「これなんかどうかな?熊さんぽくて凄く可愛いと思うんだ」


「うーん、そうだねぇ」


リンが熊を模った寝袋を指さす。

確かにデザインは可愛いとは思うが、頭の部分に飾りとして大きな耳が付いていた。可愛いとは思うけど、正直その部分は余計かなと思う。


寝袋はダンジョン攻略様に持ち込む物だ。

他にも色々と持ち込む事を考えると、出来るだけ軽量でコンパクトに纏められる物が好ましい。


「飾り付きは嵩張るからちょっと……」


「そっかぁ……そうだよね」


リンがあからさまにがっかりする。

僕個人としても、熊の寝袋に包まれるリンの寝顔を堪能したい気持ちはあった。

だけどダンジョン攻略は遠足ではない。


残念だけどこれもリンの為だ。

諦めて貰おう。


「あれなんかどう?」


僕は奥のショーケースに飾られている、ヒマワリ柄の寝袋を指さした。

余計な飾り物は付いていないし、可愛らしいデザインだ。

きっとあれに包まれたリンの寝顔は素的に違いない。


「ほんとだ!カワイイ!……でも……」


リンが言葉を詰まらせる。

理由は至って単純。

とんでもなく高いのだ。


シンプルな花柄の寝袋が100万オーバー。

そりゃ躊躇うよね。

因みにさっきの熊の奴は3万だ。


実にその価格差33倍以上!


勿論高いのには理由がある。

ひまわりの寝袋は魔法で処理が施さされていた。

いわゆるマジックアイテムと言う奴だ。


軽くて丈夫で汚れにくく。

しかも寝心地はまるでふかふかのベッドの様。

と、プレートには記されている。


「確かに高いけど、お金には余裕があるし。大丈夫だよ」


結構な期間、狂ったようにオーガを狩っていたおかげで資金は十分にある。

その気になれば、安い一軒家がポンと変える位溜まっていた。


「うーん。他にも買う物がいっぱいあるけど、大丈夫かな?」


「無駄遣いは出来ないけど。余程の事がない限り足りないって事は無い筈さ」


この後リンは武器以外の装備も一新する予定になっている。

今までは動きやすい皮の鎧を上半身に着けていただけだったけど、ダンジョン攻略に当たって本格的な装備に変える事にしたのだ。


購入するのは、ダンジョン内では着替えが出来ない――荷物になるので――事を考慮して、魔法で処理されている汚れにくいシャツとズボンを。

それと長く歩かなければならないので、足の負担を大きく軽減してくれる魔法のブーツも購入する。


鎧は魔法金属であるミスリルを、網状に編み上げられたミスリルシャツにする予定。軽いのに、防御力にも期待できる逸品だ

後、膝と肘に同じ素材で出来たガードも考えている。


店できっちりと確認したわけではないが、多分これだけでも軽く1千万は超えて来るだろう。これがアイアインシャツだったり、魔法処理されていない服装だったら、そこそこ上質な物を選んでも100万もしない筈。


兎に角、魔法金属や魔法を付加されたものは値が張るのだ。


「じゃあこれに決まりだね。すいませーん!」


リンは元気よく手を上げ。

店員さんを呼んで寝袋を購入して店を後にする。


「次は何処に行こうか?」


「一度宿に戻って、荷物を降ろしに行こう。で、買い物の続きはお昼を食べてからって事にしない?」


「うん、賛成。実はお腹が少し減ってたんだ。それを見抜くなんて、さっすがサイガ」


「ははは、リンの事は何でもお見通しだよ」


僕達は昼食を取る為に、いったん宿へと戻る。

ま、僕は食べられないんだけどね。

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