18話 リベンジ

「よう、精が出るな」


オーガをいつも通りビームで吹っ飛ばしていると、声をかけられた。

ゲイルだ。

見ると、今日はフルメンバーの10人全員が揃っている。


「お久しぶりです、皆さん」


リンが彼らに挨拶し、僕もそれに合わせて頭を下げた。


「随分大所帯みたいだけど、遠征でもするの?」


「エリアボスの角突きに挑戦するのさ」


前回は6人で挑んで、敗走して僕らと遭遇している。

角付きは回復力が凄まじいらしく――今までワンビームで沈めたのでしらなかった――6人の火力では倒しきれないとの判断で、あの時は撤退したそうだ。

だから今回は4人追加で押し切る積もりらしい。


「お前らみたいに一発ってわけには行かないだろうけど、今度は勝つぜ!」


ゲイルはそう言うと、親指を立てて決め顔をする。

手応え次第では更に先に進むと言って、彼らはその場を後にした。


「大丈夫だよ」


リンが難しい表情で彼らの背中を見送る。

多分、彼らの事を心配しているのだろう。

僕は彼女を安心せさる様に明るく声をかけた。


「彼らは一度戦ってるんだ、状況や相手の能力は把握できている筈。負けはしないさ」


彼らはダンジョン攻略を目的とした冒険者の集団クランだ。

一度負けた相手に無策で突っ込む程、愚かでは無いだろう。

4人追加すれば勝てると判断した上で動いているのだ。

余程の事がない限り大丈夫な筈。


「うん、そうだよね」


だがリンの表情は晴れない。

理屈では理解できても、感情がそれを素直に飲み込んでくれないのだろう。


「後を追いかけて見る?」


「え?」


リンがこれだけ彼らを心配するのは、彼らの事が好きだからだ。

凄く良い人達だし、僕も彼らは嫌いじゃない。


「こっそりついて行って、危なそうになったら助けてあげればいいじゃないか」


内緒で追いかけていって見守るのは彼らにとって少し失礼な気もするが、余計な手出しをしなければ、彼らだって怒りはしないだろう。


「う、うん。そうだね。ありがとうサイガ」


言葉と同時にリンは駆けだした。

彼らの消えた方角に。


「急ぐのはいいけど、ちゃんとオーガには気を付けてね」


「うん」


リンのレベルも上がっているので、今なら4匹ぐらいまでなら問題なく相手に出来るとは思う。とは言え、不意打ちを受けたら危険な事には変わりない。

あくまで防御は僕によるパリィなので、防ぎ損ねたら大惨事だ。


「あっ!」


追いつくと、角付きとの戦闘はもう始まっていた。

だがおかしい、エリアボスのいる場所は結構奥だと聞いている。

ここはまだそんなに深い場所じゃない。

それに確か、角突きは大きな扉の先にあるボス専用エリアに居る筈。

と言う事は、誰かがちょっかいを出して徘徊している所に偶然遭遇したのだろう。


これはちょっとまずいかもしれない。


エリアボスのいる空間には、雑魚敵は入って来ない様になっている。

だが、ここらは普通にオーガが徘徊している場所だ。

雑魚が寄ってくる事を考えると、角付き一匹だけ相手にするよりずっと難易度は跳ね上がる。


「どうしよう」


戦闘音に引かれてか、オーガ2体の影がパーティーに近づくのが見えた。

リンが迷って聞いて来る。


手助けするか否か?


レンジャーであるルートさんが気づいて弓を撃ってはいるが、強靭なフィジカルを持つオーガは怯まずパーティーへと突っ込んでいく。


「助けよう!」


まだ大丈夫な気もするけど、様子を見すぎて万一死人が出てしまったらリンの心に大きな傷が残りかねない。

言葉と同時に、ルートさん達の目前まで迫ったオーガに僕はビームを放つ。


僕の放ったビームは、並んで走っていたオーガ2匹を綺麗に纏めて消し飛ばす。

我ながらナイスエイムだ。


「サイガ君!?」


バレてしまっては離れている意味はない。

リンはパーティーに走り寄る。


「ごめん。手出しする気はなかったんだけど、緊急事態みたいだったから」


「いや、助かったよ」


後衛のカバーに入っていたガロウさんが僕達に礼を言う。


「正直、雑魚まで相手にする事を想定していなかったからね。撤退しようか迷っていたところなんだ。ありがとう」


余計だったかもしれない手出しを、ガロウさんは笑って流してくれる。

器の大きな人だ。

ま、単に本音だった可能性もあるけど。


「もし良かったら、後衛のカバーを頼んでも大丈夫かな?」


「あ、は、はい!」


角付きとの戦いには参加せず、僕達はあくまで寄って来るオーガの相手に専念する。

戦闘は10分ほど続く。

前衛がかなりボロボロになってはいたけど、最後はゲイルが止めを刺して探究者の人達が勝利を収めた。


「おっしゃ!レベルアップ!」


「やったやった!」


各々がそれぞれに歓声を上げる。

その姿を、リンは眩しそうに見つめていた。

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