17話 買い物

「うーん」


リンが展示されているショートソードを見て、眉根を寄せた。

柄と鞘に、黄色い花の綺麗な意匠が施されたショートソードだ。

どうやら彼女はそれが気になるらしい。


多分凄く良い物なのだろう、値段にはとんでもない価格が記されてた。

日本円に換算したら100万円位だ。

今リンの使ってるショートソードが1万円ぐらいだから、その100倍の可能性をこいつは秘めている事になる。


ま、流石に100倍はないか。

値段と品質は必ずしも正比例しないしね。


「ぬぬぬぬぬぬ」


リンは更に眉根を寄せて、悩み込む。

オーガの魔石は単価1万円程だ。

この所オーガを狩りまくっていたので、資金的にはぎりぎり手が届く範囲と言える。


「思い切って買っちゃおう!」


もし高級レストランで食事できていたら、きっとお金は足りなかった筈だ。

そう考えると、これはきっと運命なんだと思う。

だから僕はリンの背中を後押ししてあげた。


「うん!そうだね!」


リンの顔が、花が咲いたかの様に華やぐ。

可愛いと思う反面。

武器でそこまで喜ぶのは、女の子としてどうかなと思わなくもない。


「えへへへ、買っちゃった 」


店員から渡された剣をリンは大事に抱える。

可愛らしい花柄がリンにはよく似合っていた。


「試し切りしに行っていい?」


どうやら、さっそく試してみたくなった様だ。

まあ新しいものを手に入れたら、早く使ってみたいと思うのが人情という物。

しょうがないか。


「しょうがないなぁ、ちょっとだけだよ」


僕達はその足でダンジョンへと向かう。

まあ入り口付近で魔物を一匹狩るだけだ。

お出かけ服でもそう問題ないだろう。

今の僕にはゲージ2本と、ノックバックブレスもあるしね。


因みにノックバックブレスはゲージを使わない代わりに、ディレイが30秒程ある。

そのせいか連発は出来なかった。

これが連発出来たらダンジョン攻略がすごく楽になったんだけど、まあゲージを使わないだけ良しとしておこう。


「ちょっちょとリン? 」


迷わずハードモードのルートに入ったリンに声をかける。

てっきりリザードマン辺りで試すとばかり思っていた。


「オーガは流石に危ないんじゃ?」


僕でパリィ出来るとはいえ、攻撃を仕掛ければそれだけ此方にも隙が出来る。

万一の事を考えたらオーガは少し危険な気もするのだが。


「大丈夫!何となく行ける気がするの!」


そう自信満々に宣言すると、彼女は目についたオーガに石ころを投げつけておびき寄せ。寄って来たオーガの棍棒をパリィして仰け反らす。


「はぁ!」


リンのショートソードがオーガのがら空きの腹部目掛けて綺麗に半円を描く。

傷口がぱっくりと開き、オーガの体から血が噴き出した。


だが――オーガは怯まない。

仰け反った状態から、反動を利用して振りかぶるように棍棒を振り下ろす。


不味い!

態勢的に僕での防御は間に合わない。

鎧類を一切つけていないリンが喰らったら、大怪我ものだ。

焦った僕は、無理やり首を捻ってブレスでオーガを吹き飛ばした。


「ま、間に合った」


結構ぎりぎりだったが、何とか間に合った。


「あ、ありがとうサイガ」


「リン。やっぱりオーガは無茶だ、いつも通りやろう!」


リンの腕と言うよりは、相性のせいだろう。

オーガは体が大きく生命力も高い。

幾ら良く切れても、ショートソードでは致命傷を与えるだけのダメージを与えるのは難しいだろう。


「う、うん」


僕の指示に従ってリンはパリィを続け。

ゲージが溜まった所で僕がビームで放ち、オーガを始末する。

一瞬ヒヤッとしたが何とかなってよかった。


「あ、レベルが上がった!」


リンが驚いた様に声を上げる。

さっき一撃を入れた経験で上がったのかな?

いや、ひょっとしたら……


ネットゲームには共闘と言う物がある。

誰かの叩いているモンスターにダメージを与え、その魔物が倒されるるとダメージ分経験値を貰えるという奴だ。

もしリンのレベルアップがそうだと言うのなら、上手くすればかなり効率よく彼女のレベルを上げる事が出来るかもしれない。


「リン、ちょっともう少しオーガを狩って行こう。次はもう少しコンパクトに剣をつかって、安全にね」


「う、うん」


試してみると、あっという間にリンのレベルが上がる。

どうやら間違いない様だ。

明日からはリンのレベルも並行して、ジャンジャン上げていくとしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る