16話 デート

「えへへへ、楽しみ」


リンが笑顔でスキップする。

鼻歌なんかも歌っちゃって、可愛い事この上なしだ。


実は今日一日オフだったりする。

毎日毎日オーガとの死闘は流石に疲れると思い、思い切って休みを提案したのだ。


「朝ごはんは何を食べようっかな」


まずは食事だ。

普段は安宿の備え付けのレストランで済ませているが、今日は違う。

大通りにある人気の高級レストランへとリンは向かう。


ここ数日はオーガを狩りまくっていたので、かなりお金は溜まっていた。

今日はそれをパーット使う予定だ。


だが――


「申し訳ございません。人形等の持ち込みは、お断りさせて頂いておりまして……」


店員さんに入り口で止められてしまった。

どうやらここは、不要な手荷物の持ち込みを禁止している様だ。

まあ高級な店だから仕方がないのかもしれない。


「人形じゃ……いえ……分かりました。すいません」


リンは一瞬僕の事を人形じゃないと言おうとしたが、諦めて引き下がる。

まあしょうがない。

説明しても、人形から動く不気味な人形にクラスチェンジするだけだからね。

結果は目に見えている。


「断られちゃったね」


広場の噴水の側に、リンは腰掛ける。

一瞬僕のせいでごめんねと言いかけたが、やめておいた。

そんな事をしても、リンに気を使わせてしまうだけだ。

どうせ口にするのなら、建設的な事にしよう。


「ねぇ、来る途中の露店で見かけたサンドイッチ。凄く美味しそうだったね。折角天気もいいし、公園でピクニックしようよ」


少し行った所に大きめの公園がある。

あそこならピクニックにもってこいだろう。


「あ、それ賛成!じゃあサンドイッチを買ってきて、公園で食べよっか!」


リンは立ち上がり、僕を片手に勢いよく駆けだした。


「ちょ、ちょっとリン。そんなに急がなくても」


「善は急げだよ!」


そう言うと彼女は更にスピードを上げる。

かなり速い。

これもレベルアップの恩恵なのだろう。


「綺麗。それにいい匂い」


芝生に腰を下ろし、咲いている小さな花を見つめる。

呪われて苦労をしているとは言え、彼女も普通の女の子だ。

こうやって花をめでる姿は凄く可愛らしい。


リンは手にした袋を広げ、中からサンドイッチを取り出した。

川エビとレタスの様な物が挟まれた海老サンドだ。


「走ったら凄くお腹すいちゃった」


「ははは、ちょうどいい運動になったね 」


リンが勢いよく齧りつく。

シャキシャキとした、歯ごたえのありそうな音が上がる。

凄く美味しそうだ。


「おいしい!これ凄く美味しいよ!」


満面の笑みだ。

きっとあの高級レストランじゃ、この笑顔は見られなかったに違いない。

だって凄く堅苦しそうな雰囲気だったしね。


「ソースが付いてるよ」


僕は立ち上がり、袋の中に入っていたナプキン代わりの紙を手に取ってリンの口元を拭いてあげる。


「ありがとう、サイガ」


「いえいえ、どういたしまして」


僕はごろりと寝ころび、空を見上げる。

青空が綺麗だ。

こんなのどかな日常がずっと続けばいいのに……いや、違うな。


望むんじゃなくて掴み取るんだ。

こんな日常を、リンにとっての当たり前の日々にするために。

でも今日だけはゆっくり休むとしよう。


所でこれってデートかな?

デートだよね?

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