14話 クラン

「助かったよ。君達がいなかったら大事な仲間を失う所だった」


赤毛で細身の男性が手を差し出す。

リンはこういう事に慣れていないのか、少し戸惑ってからその手を握った。

彼の名はガロウ・レイグ。


探究者と言う名のクランのマスターだ。

僕達はそのクランが借りている、貸倉庫へとやって来ていた。

倉庫とはいっても調度品が綺麗に並べられ、ちょっとした集会所の様な感じだ。


ここへは、ゲイル達のパーティーを救ったお礼を是非と言われてやって来ている。


リンは最初来るのを渋っていた。

呪いの件があるからだ。

だけど、僕が背中を押して連れてきた。


彼女は極端に呪いの事を恐れているが、僕を手にしている間は余程の事がない限り大丈夫だと女神様から太鼓判を貰っている。

間違って周りに不幸をばら撒く心配はないだろう。


僕が彼女の傍に居られるのはたった5年。

そう遠くない未来に消えてしまう身だ。

だから僕が居なくなっても大丈夫な様、彼女には色々な人達と出来る限り交流を持って貰いたいと思っている。


「い、いえ。その前に私もゲイルさんとルートさんに助けられているので、お相子です」


「ははは、そうかい。でもまあ折角来てもらったんだ。歓迎するよ」


僕はこのクランを高く評価している。

彼らは仲間を見捨てず戻ってきた。

ティティス教のアリエなんかより。よっぽど信頼できる人達だ。


因みにクランってのは、ダンジョン攻略の為に冒険者達が作る集団の事だ。

仲間内で情報を共有したり、パーティーを組んで力を合わせて活動している。


「さ、座って座って」


そう言うとガロウは椅子を二つ引く。

どうやら僕の話はもう聞いている様だ。


「ありがとう」


テーブルには沢山の料理が並んでいた。

鳥の丸焼きや、色とりどりのサラダ。

凄く美味しそうだ。

食べれないのが残念で仕方ない。


「それでは、我れらの窮地を救ってくれた勇敢なる冒険者リンちゃんとサイガ君に乾杯!」


席に着いた皆が各々手にしたグラスを掲げる。

残念ながら僕はグラスを持てそうにないので、取り敢えず手だけ上げておいた。


「それじゃあ、二人とも遠慮なく食べてくれ」


「は、はい」


リンは遠慮しつつも食事に手を伸ばす。

サラダを一口口に入れると、凄く幸せそうな表情になってパクパクと食べ始めた。

食事を摂る事が出来ない僕は手持無沙汰だ。

幸せそうに食事しているリンを眺めるのもいいけど、取り敢えず周りを見て見る。


その場にいるのは、僕達を除いて全部で10人。

男性が7人に、女性3人の比率だ。

その中で名前を知っているのは、リーダーのガロウさんと、大剣使いのゲイルとレンジャーのルートだけだった。


あの日は彼らの仲間の一人が足を折っていたので、あの後直ぐに彼らのパーティーは仲間の手当てのために帰っている。その為自己紹介も出来ていなかった。

まあ仲間が怪我してたら、しょうがないよね。


キョロキョロしていると、大男と目が合う。

彼は僕にいきなり手を伸ばしてきた戦士さんだ。

あの時は頭部をすっぽり覆う兜をかぶっていたので分からなかったが、どうやら頭は禿げている様だった。

顔つきが怖いのでかなりいかつく感じる。


彼は席から立ち上がって、此方へとやって来た。

ひょっとして、吹っ飛ばした事への苦情だろうか?


「よう!お前さんは食わねぇのか?」


「僕は食事を摂れないんだ」


「そりゃ残念だな。今日の料理は、家の女子連中が腕によりをかけた御馳走だってのに」


「うん、凄く美味しそうだから残念だよ」


大男はいかつい見た目の割に、フレンドリーな感じで接してくる。

人は見かけによらないとはよく言ったものだ。


「そういや自己紹介がまだだったな。俺はガイア。重戦車のガイアだ」


「僕はサイガ。よろしくね」


重戦車か。

かっこいい二つ名だ。

後、何となく僕と名前が似ている。


ちょっとそれは嫌だった。

まあ口にはしないけど。


「ま、その重戦車さんはサイガに軽く吹っ飛ばされた分けだけどな」


いつの間にかゲイルが傍へとやって来て、ガイアを揶揄う。


「ゲイル!てめぇ!」


「いててててて。痛いっての!」


ガイアがゲイルの首を腕で挟んで、拳で頭をぐりぐりする。

凄く仲が良さそうだ。


クスクスと笑い声が聞こえたので、横を見ると2人の様子を見てリンが笑っていた。

その笑顔を見て、此処に連れてきたのは大正解だったと確信する。


やっぱり彼女には笑顔が一番似合う。

そう思いながら、眩しいばかりのリンの笑顔を僕は見つめるのだった。

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