11話 はい、あーん

「サイガ!何食べる?」


リンが満面の笑顔で朝食のリクエストを聞いて来る。

その笑顔だけで僕はお腹一杯さ。

格好つけて言ってみようかと思ったけど、恥ずかしいからやめておく。


「残念ながら、ご飯は食べられないよ。人形だしね」


「そうなんだ?動けるから、てっきりご飯も食べられるのかと思ってた。せっかく一緒にご飯を食べられると思ったのに、残念」


「ごめんね、リン」


「ううん、サイガのせいじゃないよ。謝らないで」


リンは笑顔でそう言うと、ウェイトレスさんを呼んで朝食を注文する。

メニューは卵焼きとアポルだ。

アポルはリンゴによく似た赤い果物。

味は食べた事がないから分からないや。


今日は食事を取ったらダンジョンへと向かう。

行くのは高難易度のルートだった。

初日に誰かの悪戯でリンが誤って迷い込んでしまったあの場所だ。


目的はレベル上げ。

誰の?勿論僕のだ。

昨日リンと話し合って、まずは高難易度ダンジョンで僕のレベルを上げる事になった。


リンのレベルは現在11。

低難易度のダンジョン低層では、これ以上上げるのは難しかった。

勿論先に進めば強い敵は出てくるが、それだとどうしても移動に時間がとられてしまう。

それは物凄く効率が悪い。


だから昨日リンは、中難易度ルートでリザードマンを狩っていた。

だけど、昨日みたいにまた囲まれたら危険だ。

ビームがあるから1度ぐらいは大丈夫だろうけど、連続で来られたら対処できなくなってしまう。

だから先に僕のレベルを上げる事になったのだ。


リンが運ばれてきた目玉焼きを、フォークで刺してかぶり付く。

冒険者である両親の元で育ったせいか、食べ方が少々豪快だ。


「美味しい?」


「うん、すっごく美味しい!」


「サイガも食べて見る?はい、あーんして」


「い、いやだから……僕は食べられないって」


リンの齧りさしを差し出され、思わずドキリとする。

僕が人形ではなく人間だったなら、どれだけ良かった事か。

まあ人間だったら、“はい、あーん!”は流石にしてくれなかっただろうけどね。


「ふふ、ざーんねん。じゃあ残りも私が」


そう言ってフォークの先を自分に向け、大きく開けた口に突っ込んだ。

その幸せそうな笑顔。

見ていると僕まで幸せな気分になってくる。


今は只横で座っているだけだけど。

いつかは……って無理かぁ。


僕はレベルが上がっても能力は一切上がらない。

代わりにスキルや、この体の機能が拡張されるようになっている。

とは言え、流石に食事が出来る様にはならないだろう。


ま、贅沢は言わないさ。

今は強くなる事だけを考えよう。

彼女を守るために。

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