10話 触れ合い

目を覚ます。

瞳に移るのは、薄暗い天井だ。


僕はまずは首を動かしてみる。

右に首を傾けると、視界が大きく動いた。

うん、思い通りに動く。


次は手だ。

上に持ち上げて、顔の前に翳す。

掌の部分には、柔らかそうなもふもふの肉球が見えた。

リンはよく僕のこの部分をフニフニしてくる。


体を折って、上半身を起こしてみる。

そしてそのまま前屈気味に動きつつ、足を動かした。


「立てた!」


声も出る。

女神ティティス様とのやり取り、やはりあれは夢では無かった。


そして女神様は、ちゃんと僕の願いを聞き届けてくれた。

体を動かしたいという願いを。

対価を取られてしまったが、それは些細な事だ。


これで彼女と話す事も出来る様になった。

もう彼女に寂しい思いは……って、喋って大丈夫かな?

いきなり人形がしゃべったら、彼女は不気味がらないだろうか?


ビームが大丈夫だったんだから、すんなり受け入れてくれそうな気もする。

いや、それとこれとは話が別か。


ビームを撃つ人形は只の機能と言えなくもないが、心を持って話すのは流石に機能の一言じゃ片付かない物がある。

何か合理的な理由を考えた方が良さそうだ。


嘘をつくのは心苦しいが、素直に全部喋る事は出来ない。

何故なら、女神様によっていくつか制限をかけられてしまっているからだ。

その中には僕が転生者である事。

それに女神さまの力で動ける様になった事も入っている。


その二つ抜きに説明するとなると、結構敷居が高い。

何かいい案はない物かと首を捻っていると、不意に声を掛けられた。


「サイ……ガ……」


リンが此方を驚いた様な表情で見つめている。

ミスった。

まだ理由を考え終わっていないのに。


「や……やあ」


一瞬人形のふりをしようかとも思ったが、思いっきり立ち上がって首を動かしてしまっているので流石に無理だろう。

取り敢えず片手を軽く上げて挨拶する。


「サイガがしゃべった……夢……じゃないよね」


「夢じゃないよ、リン」


何だか胸が熱くなる。

傍に居たのに、彼女と言葉すら交わせなかったあの日々。


ずっとずっと、声をかけてあげたかった。

君は一人じゃないって、言ってあげたかった。

それがやっと叶う。


「リン、今までよく頑張ったね。これからは僕が一緒だよ」


いきなりこんな事を言われても、リンは困るかもしれない。

気持ち悪がられるかもしれない。

だけど、どうしても伝えたかった。

僕の素直な気持ちを……


リンの瞳から涙が零れ落ちた。

一粒、二粒と。

涙が次から次へと溢れ出し、彼女の頬を濡らす。


「サイ……ガぁ……あ…あたし……あたしぃ……」


リンが僕を強く抱きしめ。

体を小刻みに震わせ、嗚咽を上げる。


「リン、これからは僕が君を守る」


僕は彼女の髪を優しくなで、自らの決意を口にする。

これは絶対の誓いだ。

何があっても、僕が彼女を守り抜いて見せる。

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