9話 お願い

気付いたら、雲の上の様な場所だった。

視線を落とし足元を見る。


どう見ても雲。

いや、ふわふわとした綿菓子の様にも見えるか。

試しに足踏みしてみると、想像通りの柔らかい感触が帰って来た。


「ふふっ、楽しそうですね」


「わっ!?」


思わず大きな声を上げる。

急に声を掛けられ顔を上げたら、すぐ目の前にさっきまで無かった女性の顔があったからだ。


「お久しぶりです」


「ティティス様!?……此処って、確か僕が転生した時に来た所ですよね?」


この場所には見覚えがあった。

以前死んだ時、僕が訪れた場所だ。

そして目の前の美しい女性こそ、僕を転生させてくれた女神であるティティス様だった。


「ええ、此処は天界です。そして、ここへは用事があって貴方を呼びました」


「用事ですか?」


僕に一体何の用だろうか?

実は転生先を間違えていたとか?

まさかね。


「間違いとは、少し違いますね。これは最終確認です」


心の声を訂正される。

どうやらティティス様には、僕の心の声が聞こえる様だった。


「最終確認……ですか?」


「ええ、貴方の転生先がその体で良いのかと言う確認です」


どういう事だろうか?

女神さまの口ぶりだと、別の体がまるで貰えるかの様に聞こえるのだが?


「その通りです。彼女に会いたいという貴方の強い願望から、神器であるあの人形に貴方を転生させました。ですが所詮は疑似生命でしかありません。このままいけば、遠からず貴方は死ぬ事にになるでしょう」


死ぬ?

僕が?

でも僕には無敵のチートが……


「全ての攻撃を退ける事と、寿命は完全に別物です。恐らくあの体は持って5年程度でしょう」


5年?

たったそれだけ?

あの体だと、それだけしか生きられないっていうの?


「ですが、別の体に転生すれば普通の命としてやっていけるでしょう。貴方に与えた祝福チートも其方に引き継がれます」


「チートが引き継ぐって事は……」


「当然神器にその能力は残りません」


それは不味い。

そうでなくてもリンは一人で無理をしているんだ。

盾が無くなってしまったら、いつ命を落としてもおかしくない。

だから僕の盾としての能力が、人形から失われるのは困る。


でも、でも別の体になっても直ぐに会えるのなら……僕の手で彼女を守ってあげられるんじゃないか?

それなら迷う必要は無いだろう。


「生まれ変わった僕は、直ぐにリンに会いに行けるんですよね?」


「残念ながら……新たな体は0からのスタートになってしまうので、早くても10年はかかる事になるでしょう」


「そんな……」


10年も離れ離れになるなんて……

でも、あの体のままじゃ5年しか持たない。


「残酷な選択を迫っているのは分かっています。ですが、どちらかを貴方に選んでもらわなければなりません」


長く一緒にいたいのなら、別の体に絶対すべきだろう。

でも会えない10年で彼女が死んでしまったら、何の意味も無くなってしまう。

僕はいったいどうすれば……


いや、迷う必要は無いよな。

答えなんて決まってる。


「そのままの、人形の体でお願いします」


僕はリンから受けた恩を返し、守ると誓った。

10年も彼女を放っておくなど論外だ。


「良いのですね?」


「はい!」


女神様に、はっきりと返事を返す。

5年しか彼女の側にいられないと言うんなら、その間、全力で彼女を守り抜いて見せる。

そしてダンジョン攻略を必ず果たし、彼女を呪いから解放するんだ。


けどその為には……


「女神様!お願いがあります!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る