8話 手数に弱い

「ぎしゃあああ!」


雄叫びを上げ、リザードマンが飛び掛かって来る。

リンはその剣を僕で綺麗に受け流すパリィ


リザードマンの態勢が崩れ。

その胸元ががら空きに。

そこに剣を差し込めばリンの勝利だ。


「!?」


だがそれは横から飛んで来た魔法によって遮られた。

リンは咄嗟に魔法を僕で受け、態勢を立て直したリザードマンから間合いを離す。


みると横穴から二体のリザードマンが姿を現していた。

一体は目の前のものと同じ只のリザードマンだが、もう一体はリザードメイジだ。


通常のリザードマンが青い肌をしているのに対し、メイジは肌が苔むした様な緑色をしている。

体も一回り小さく、その手には剣ではなく杖が握られていた。

魔法を飛ばしたのは間違いなくこいつだろう。


正直、ちょっとまずいかもしれない。

リザードマン達はそれ程強い魔物では無かった。

今のリンが一対一で不覚を取る事はまずありえないだろう。


しかし後衛であるメイジを含めた3体に連携を取られるとなると、話は別だった。

1人1人は大した事がなくとも、徒党を組むと厄介なのは魔物も人間も同じだ。

特に僕達の場合、相手の手数が増えると戦いがかなり厳しくなってしまう。


僕は無敵の盾ではあるが鎧ではない。

リンが僕を使って上手く攻撃を防がないと、僕の能力は生かせないのだ。

そういう意味では一匹の強敵よりも、複数いるそこそこの敵の方が僕達にとっては強敵となり得た。


「くっ」


リザードマン3体が猛攻を仕掛けてくる。

それをリンは僕で必死に捌くが、いかんせん手数が多い。

防ぐので手一杯でジリ貧だ。


仕方がない。

あれを使おう。

このまま時間をかけて追加が来たら目も当てられない。


あれとは勿論、ビームの事だ。

幸い1ゲージ分は溜まっている。


だがどうせ撃つなら、複数を同時に消し飛ばしたい。

流石に3匹一気にと言う訳にはいかないが、2匹位なら同時に行ける筈だ。


僕が慎重にタイミングを計っていると、ドスっという鈍い音が聞こえた。

見るとリザードマンの肩に深々と矢が突き刺ささっている。


「きしゃあああああ!!」


肩を射抜かれたリザードマンが痛みで声を上げ、怯んだ。

リンはその隙にもう一体の剣を弾き、怯んでいるリザードマンの首を切りつけた。

リザードマンは喉を裂かれた為、断末魔の声を上げる事も出来ずに崩れ落ちる。


「ぐぇぇぇ……」


鈍い声を上げて、矢で射抜かれたメイジが沈む。

更に最後の一体も、此方に駆けてきた来た戦士の一撃で首が跳ね飛ばされた。


「大丈夫か?」


その男がリンに声をかけた。

背はかなり高い。

190近くはあるだろうか?


筋骨隆々で体にはハーフプレートを身に着け、額には髪を束ねるかの様に赤いバンダナが巻いてある。

その手にしている獲物は大型の両手剣だが、先程この男はその大剣を片手で軽々と振り回していた。


とんでもない膂力だ。


「あ、ありがとうございます」


「君みたいな子供が一人でこんな所まで来るなんて、無茶するもんじゃないぜ」


その男はポンポンとリンの頭を叩く。

助けて貰った事には感謝するけど、あんまり気安くリンに触らないでほしい。


「ゲイル!女の子に失礼でしょ!」


いつの間にか女性が傍に立っていた。

その背には弓と矢筒を背負われている。

弓で援護してくれたのは、彼女なのだろう。


身に着けている物は男に比べ軽装で、動物の皮をなめした皮鎧を身に着けていた。

黒い長めの髪は首の後ろで縛られており、吊り気味の目から気の強そうな印象を受ける。


「ごめんね、うちの馬鹿が失礼しちゃって」


「いててて!ライン痛いっての!」


ラインと呼ばれた女性は、ゲイルの頭をヘッドロックしてぐりぐりする。

凄く仲が良さそうだ。

2人は兄弟――にしては似てないので、多分恋人か夫婦なのだろう。


「あ、いえ。私は気にしてません。それよりも助けて下さって有難うございます」


「良いって良いって、そんなの。困った時はお互い様でしょ」


リンが丁寧にお辞儀をすると、ラインは何故か手首をくいっと、倒し大阪のおばちゃんの様な動きを見せる。

年齢は20代ぐらいに見えるが、実は案外行ってるのかもしれない。


「余計なお世話かもしれないけれど、このルートのソロはかなり危ないわ。パーティーを組むか、狩場は変えた方がいいと思うわよ」


「は、はい」


その言葉にリンは俯いた。


狩場の検討は確かに必要だ。

此処は魔物の密度が高すぎる。

別のルートも検証する必要があるだろう。


だがパーティーを組むという選択肢は、リンにはなかった。


当然それは呪いのせいだ。

神器の力で抑えられてはいるが、それも絶対な物ではない。

万一ダンジョン内で呪いが漏れ出してしまったら、最悪全滅もあり得るだろう。

それが怖くて、リンは誰とも組む事が出来ないでいでいるのだ。


「俺達が入り口まで送って行こうか?」


「い、いえ。それには及びません。大丈夫です。それじゃあ」


そう言うとリン再び頭を下げてから、出口の方へと駆けていく。

顔を覗き込むと、その表情は凄く寂しそうだった。

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